減損損失とは?判定フローから計算・仕訳まで会計処理の実務を解説
企業の収益性が低下し、保有資産の価値を財務諸表にどう反映すべきか、お悩みの経営者や財務担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。このような状況で検討されるのが、資産の実態価値を帳簿価額に反映させる「減損会計」です。この記事では、減損損失の基本的な考え方から、対象資産、メリット・デメリット、そして実務で最も重要となる判定フローや具体的な計算・仕訳方法までを網羅的に解説します。
減損損失(減損会計)とは?その目的と基本を解説
減損損失の定義:資産の収益性低下を財務諸表に反映させる会計処理
減損損失とは、企業が保有する固定資産の収益性が著しく低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合に、資産の帳簿価額を実態に合わせて引き下げる会計処理のことです。具体的には、固定資産から得られる将来のキャッシュフローの総額が帳簿価額を下回る際に、その差額を特別損失として計上します。
この処理は、市場環境の変化や技術革新などにより価値が実態と乖離した資産を、適正な評価額まで修正する役割を担います。これにより、含み損を抱えた資産を過大に評価し続けることを防ぎ、企業の財政状態をより正確に投資家へ報告することが可能になります。
減損会計の目的:投資家への情報提供と財務状況の健全化
減損会計は、企業の財務諸表の信頼性を高め、ステークホルダー(投資家や債権者など)に正確な情報を提供することを主な目的としています。過大評価された資産を放置することは、誤った投資判断を誘発し、市場の健全性を損なう恐れがあるためです。
また、経営的な観点からは、不採算資産の実態を明確にすることで、事業再編や経営資源の効率的な再配分といった、迅速な意思決定を促す目的もあります。減損会計は単なる損失計上ではなく、企業の収益力を再評価し、将来の成長に向けた基盤を整えるための重要な手続きと言えます。
- 投資家保護:企業の財政状態を正確に開示し、適切な投資判断を促す
- 財務の健全化:不良資産を財務諸表から整理し、経営資源の効率的な再配分を促す
- 経営規律の確保:将来への損失先送りを防ぎ、早期の経営判断を可能にする
減損会計の対象となる主な固定資産
有形固定資産(土地、建物、機械装置など)
有形固定資産は、企業の事業活動で長期的に使用される物理的な実体を持つ資産で、減損会計の主要な対象です。土地は通常、減価償却されませんが、市場価格が著しく下落した場合には減損の対象となります。また、建設中の資産(建設仮勘定)も、完成後の収益性が見込めなければ減損の対象に含まれます。
- 土地、建物、構築物(工場、倉庫、看板など)
- 機械装置、車両運搬具、工具器具備品
- 建設仮勘定(建設中の建物や機械)
- リース資産(ファイナンス・リース取引の場合)
無形固定資産(のれん、ソフトウェア、特許権など)
無形固定資産は、物理的な形はないものの企業に収益をもたらす権利や価値を示す資産で、同様に減損会計の対象です。特に、企業買収(M&A)の際に生じる「のれん」は、買収後の事業が計画通りに進まない場合に多額の減損損失が発生する可能性があります。ただし、販売目的のソフトウェアは別の会計基準が適用されるため対象外です。
- のれん(M&Aで発生した超過収益力)
- ソフトウェア(自社利用目的のもの)
- 法的権利(特許権、商標権、借地権など)
投資その他の資産(投資不動産、関係会社株式など)
事業用資産以外にも、長期的に保有する投資その他の資産が減損会計の対象となる場合があります。代表例は、賃貸や売却を目的として保有する投資不動産です。また、子会社や関連会社の株式も、発行元の財政状態が著しく悪化した場合などには減損の検討が必要です。
ただし、活発な市場で時価評価される上場株式などの有価証券は、金融商品に関する会計基準が適用されるため、減損会計の直接の対象とはなりません。
- 投資不動産
- 関係会社株式(市場価格のないもの)
- 長期前払費用
減損損失を計上するメリットとデメリット
メリット:財務の健全化と次年度以降の収益改善
減損損失を計上する最大のメリットは、実態とかけ離れた過大な資産を整理し、財務体質を健全化できる点です。これにより、財務諸表の信頼性が向上します。
また、実務的な利点として、将来の費用負担が軽減される効果があります。減損によって固定資産の帳簿価額が減少するため、翌期以降の減価償却費も減少し、利益が出やすい体質へと変わります。これにより、過去の投資の失敗を清算し、経営の再スタートを切るための前向きな戦略として活用されることもあります。
- 財務の健全化:過大評価された資産を整理し、財務諸表の信頼性を高める
- 将来の収益改善:減価償却費が減少し、翌期以降の利益が出やすくなる
- 経営判断の促進:不採算事業からの撤退など、経営資源の再配分を後押しする
デメリット:一時的な業績悪化と評価の主観性リスク
減損損失を計上すると、その期に多額の特別損失が発生し、当期純利益が大幅に減少、場合によっては巨額の赤字に転落する可能性があります。これは株価の下落や金融機関からの信用格付けの悪化を招くリスクを伴います。
もう一つの大きなデメリットは、評価プロセスの主観性です。減損の判断は将来キャッシュフローの見積もりに大きく依存しますが、この見積もりには経営者の予測が含まれるため、恣意性が入り込むリスクが否定できません。そのため、監査法人との協議が難航したり、ステークホルダーへの説明責任が重くなったりする実務的な負担も生じます。
- 一時的な業績悪化:特別損失の計上により、当期純利益が大幅に減少し赤字になる可能性がある
- 対外信用の低下:株価下落や金融機関からの格付け悪化につながる恐れがある
- 評価の主観性:将来キャッシュフローの見積もりに主観が入りやすく、恣意性のリスクがある
- 実務負担の増大:評価プロセスの複雑さや、監査法人・関係者への説明コストが大きい
減損損失の判定から計上までの実務フロー
ステップ1:資産のグルーピング(独立したキャッシュフローを生む最小単位)
減損会計の最初のステップは、対象資産を適切な単位にまとめる「グルーピング」です。個々の資産が独立して収益を生むケースは少ないため、会計基準では「他の資産グループから概ね独立したキャッシュフローを生み出す最小の単位」で資産をグループ化することが求められます。
実務上は、事業部門、工場、店舗といった管理会計上の区分や、投資の意思決定単位を基準に設定します。このグルーピングが不適切だと、その後の減損判定も不正確になるため、事業の実態を正しく反映させることが非常に重要です。
ステップ2:減損の兆候の把握(営業赤字や市場価格の下落など)
グルーピング後、各資産グループに減損が生じている可能性を示す事象(減損の兆候)があるかを判定します。兆候がなければ、その後の詳細な手続きは不要です。兆候の有無は、客観的な指標に基づいて判断されます。
以下に、減損の兆候と見なされる代表的なケースを挙げます。
- 営業損益・キャッシュフローの継続的なマイナス(例:2期連続赤字)
- 資産の使用状況の著しい変化(事業の廃止・縮小、遊休化など)
- 経営環境の著しい悪化(市場環境の急変、法改正など)
- 資産の市場価格の著しい下落(例:帳簿価額からおおむね50%以上の下落)
ステップ3:減損損失の認識判定(割引前将来キャッシュフローとの比較)
減損の兆候が認められた資産グループは、次に減損損失を計上すべきかどうかの「認識判定」に進みます。この段階では、資産グループから生み出されると予測される「割引前将来キャッシュフロー」の総額を計算します。
そして、この総額と資産グループの現在の帳簿価額を比較します。割引前将来キャッシュフローが帳簿価額を下回る場合にのみ、減損損失が存在すると認識され、次の測定ステップに進みます。帳簿価額を上回っていれば、投資額は回収可能と判断され、その時点での減損処理は見送られます。
ステップ4:減損損失の測定(回収可能価額の算定)
減損損失を認識すべきと判定された場合、最後に具体的な損失額を計算する「測定」のステップに入ります。減損損失額は、「帳簿価額」から「回収可能価額」を差し引いて算出します。
回収可能価額は、「正味売却価額(資産を時価で売却した価額)」と「使用価値(資産を継続使用した場合の将来キャッシュフローの割引後現在価値)」のうち、いずれか高い方の金額と定義されます。算定された回収可能価額まで帳簿価額を引き下げ、その差額を減損損失として計上します。
将来キャッシュフロー見積もりの客観性をどう担保するか
減損会計で最も難しい課題は、将来キャッシュフローの見積もりの客観性を確保することです。恣意的な判断を避け、信頼性の高い評価を行うためには、いくつかの手続きが求められます。
まず、見積もりの基礎となる事業計画は、取締役会など社内の正規の承認プロセスを経ている必要があります。その上で、計画の前提条件や数値を文書化し、監査法人に対して論理的に説明できる体制を整えることが不可欠です。
- 取締役会などで承認された事業計画や予算を基礎とする
- 過去の実績や客観的な市場データと比較し、計画の合理性を検証する
- 外部専門家(不動産鑑定士など)の評価を積極的に活用する
- 監査法人と十分に協議し、見積もりの前提条件を文書化しておく
減損損失の具体的な計算方法と仕訳例
減損損失額の計算式と回収可能価額の考え方
減損損失額は、以下の計算式で算出されます。 `減損損失額 = 帳簿価額 – 回収可能価額`
この計算式の鍵となる「回収可能価額」は、資産を売却した場合と使い続けた場合を比較し、企業にとってより有利な(金額が高い)方を採用するという経済的合理性に基づいています。
| 項目 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 正味売却価額 | 資産の時価から処分費用見込額を控除した金額 | 売却した場合の価値 |
| 使用価値 | 資産の継続的使用から生じる将来CFの割引現在価値 | 使い続けた場合の価値 |
回収可能価額は、上記2つのうち、いずれか高い方の金額となります。
【設例】減損損失を計上する際の具体的な仕訳方法
減損損失を計上する際の仕訳には、資産の帳簿価額から直接減額する「直接控除形式」と、評価勘定を用いる「間接控除形式」があります。原則は直接控除形式です。
例えば、帳簿価額2,000万円の建物について500万円の減損を認識した場合の仕訳は、以下のようになります。
| 形式 | 借方 | 貸方 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 直接控除形式(原則) | 減損損失 500万円 | 建物 500万円 | 資産の帳簿価額を直接減額する |
| 間接控除形式(容認) | 減損損失 500万円 | 減損損失累計額 500万円 | 取得原価は変えず、評価勘定を用いる |
いずれの方法でも、損益計算書上では「特別損失」として計上されます。
減損損失が財務諸表に与える影響
損益計算書(P/L)への影響:特別損失として当期純利益を圧迫
減損損失は、損益計算書の「特別損失」の区分に計上されます。これは、経常的な事業活動から生じる費用とは性質が異なるためです。結果として、計上した期の当期純利益は大幅に減少し、赤字決算となる場合も少なくありません。
一方で、減損により固定資産の帳簿価額が減少するため、翌期以降の減価償却費の負担が軽くなります。これにより、将来の営業利益や経常利益が改善しやすくなるという側面もあります。
貸借対照表(B/S)への影響:固定資産と純資産が減少
貸借対照表では、減損損失の計上により「資産の部」の固定資産が減少します。これに対応して、「純資産の部」の利益剰余金も同額だけ減少します。その結果、総資産と自己資本がともに減少し、自己資本比率が低下するため、財務の安全性が一時的に悪化する可能性があります。
しかし、これは資産価値を実態に合わせた結果であり、財務諸表の透明性は向上します。実態に見合った資産規模にスリム化されることで、長期的には資産効率を示す経営指標の改善につながります。
キャッシュフロー計算書(C/F)への影響:資金支出を伴わない費用
減損損失は、会計上の評価に基づく費用であり、実際に現金が社外へ流出するわけではありません。そのため、キャッシュフロー計算書上、直接的にキャッシュが減少することはありません。
間接法で作成されるキャッシュフロー計算書では、税引前当期純利益に、現金の支出を伴わない費用として減損損失額を加算調整します。したがって、損益計算書で大きな赤字が出ていても、営業活動によるキャッシュフローはプラスを維持しているケースも多くあります。ただし、これは将来のキャッシュ創出能力が低下したことを示す重要なシグナルでもあります。
金融機関や株主への説明責任とコミュニケーションの要点
多額の減損損失を計上する際には、金融機関や株主といったステークホルダーへの丁寧な説明が不可欠です。単に損失額を報告するだけでなく、減損に至った背景や今後の再生計画を具体的に示すことが、信頼関係を維持する上で重要となります。
- 減損計上に至った背景(外部・内部要因)の論理的な説明
- 減損後の具体的な収益改善策と事業再生シナリオの提示
- キャッシュフローへの直接的な影響はなく、財務的な安定性は維持されていることの説明
- 経営責任の明確化と、将来に向けた構造改革への決意表明
減損損失に関するよくある質問
減損損失を計上すると法人税は安くなりますか?
いいえ、会計上で減損損失を計上しても、原則として法人税は安くなりません。税法上、固定資産の評価損が損金として認められるのは、災害による損傷など極めて限定的なケースのみです。通常の収益性低下を理由とする減損損失は、税務上は「損金不算入」となり、申告調整の対象となります。ただし、税効果会計が適用されるため、繰延税金資産が計上される場合があります。
一度減損した資産の価値が回復した場合、損失の戻し入れは可能ですか?
いいえ、日本の会計基準では、一度計上した減損損失の戻し入れは認められていません。たとえ後に資産の収益性が回復しても、減損処理前の帳簿価額に戻すことはできません。これは、安易な利益調整を防ぐための措置です。なお、国際財務報告基準(IFRS)では一定の要件下で戻し入れが認められており、日本基準との大きな違いの一つです。
減損損失と減価償却の根本的な違いは何ですか?
減価償却が資産の取得原価を耐用年数にわたって計画的・規則的に費用配分する手続きであるのに対し、減損損失は資産の収益性が著しく低下した際に臨時的・突発的に帳簿価額を切り下げる会計処理です。両者の違いを以下の表にまとめます。
| 項目 | 減価償却 | 減損損失 |
|---|---|---|
| 目的 | 取得原価を耐用年数にわたり規則的に費用配分する | 資産の収益性低下を臨時的に財務諸表へ反映させる |
| 性質 | 計画的・継続的な費用計上 | 臨時的・突発的な損失計上 |
| 原因 | 使用や時の経過による価値の減少 | 市場環境の悪化などによる収益性の著しい低下 |
| 計上 | 毎期、定額法や定率法などに基づき計算 | 減損の兆候を認識した場合に、必要性を判定して計上 |
まとめ:減損損失の計上は、財務健全化に向けた重要な経営判断
本記事では、減損会計の目的から具体的な実務フロー、財務諸表への影響までを解説しました。減損損失の計上は、一時的に多額の特別損失が発生し業績を圧迫するものの、資産価値を実態に合わせ、将来の費用負担を軽減することで財務体質を健全化させる重要な経営判断です。実務においては、資産のグルーピングから将来キャッシュフローの見積もりまで、客観的な根拠に基づき慎重に進めることが求められます。また、会計上の損失は税務上の損金とはならず、一度計上した損失は戻し入れできない点にも注意が必要です。この記事で解説した手順と影響を正しく理解し、監査法人や専門家とも連携しながら、自社の状況に合わせた適切な判断を行いましょう。

