法務

IFRS減損の進め方|日本基準との差と回収可能価額の判断軸

経営リスクナビ編集部

IFRSの減損会計(IAS第36号)を前提に、のれん・固定資産などの大口投資について「どの資産を、どの単位で、どの前提で」減損テストすべきかの整理に悩む場面は少なくありません。日本基準の二段階(割引前CF→割引後)と異なり、兆候があれば回収可能価額の見積りに直結しやすいため、前提設定や監査対応の準備が遅れると、期末の論点が長引きやすくなります。とくに日本基準の20年以内の均等償却とIFRSののれん非償却の差は、損益・開示・投資家説明の組み立てにも影響します。以下では、IFRS減損の判断材料として対象資産・兆候・テスト手順・開示の要点を示します。

目次

IFRS減損の基本整理

IAS第36号の位置付けを押さえる

IAS第36号は、資産の帳簿価額が回収可能価額を超えて計上されることを防ぐための基準で、IFRSの減損会計の中核です。回収可能価額は、(1) 使用価値(継続使用と最終処分から生じる将来キャッシュ・フローの現在価値)と、(2) 処分コスト控除後の公正価値(市場参加者間の秩序ある取引に基づく売却価格から処分コストを控除した額)のいずれか高い方で決まります。したがって、将来キャッシュ・フローの見積りと割引率設定(貨幣の時間価値+資産固有リスク)が、減損損失の認識の早期化・遅延の双方に影響します。

日本基準(固定資産の減損会計)と比べたときの実務上の要点は、判定ステップの構造とのれんの扱いです。日本基準では、兆候がある資産グループについて、まず割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額を比べて「認識」の要否を判定する考え方が整理されています(時間価値をこの段階では考慮しません)。一方、IAS第36号は「割引前CFでのクッション判定」を前提にせず、兆候があれば回収可能価額(現在価値ベースを含む)を算定して帳簿価額と直接比較する運用になりやすい点が差分になります。

また、のれんについては、日本基準が20年以内の均等償却(負ののれんは発生時に一括利益計上)という整理であるのに対し、IFRSではのれんは非償却であり、その代替として厳格な減損テストが重要になります。CFO・経営者の観点では、減損が損益に与える影響だけでなく、のれん償却が無いことによる利益指標の見え方(ただし減損時には一括で効く)の違いも、資本政策・投資判断・説明戦略に直結します。

減損の対象資産と対象外資産を分ける

IAS第36号の適用対象は、有形固定資産(機械装置、建物等)、無形資産(ソフトウェア、特許、商標、開発資産等)、および企業結合で認識されるのれんが中心です。特にのれんは単独でキャッシュ・インフローを生みにくいため、買収シナジーから便益を得る資金生成単位(CGU)またはCGUのグループへ配分してテストする整理が実務の起点になります。

一方、評価・減損のルールが他基準で定められている資産はIAS第36号のスコープ外として整理します(棚卸資産、繰延税金資産、従業員給付、金融商品、投資不動産、売却目的保有資産など)。

加えて、実務上の誤解が出やすい論点として、事業の用に供していない資産の扱いがあります。税務上は、購入後に未使用の資産や、操業休止により事業の用に供していない資産について、減価償却費や維持管理費の損金算入が制約され得る旨が整理されています(例:法人税法および法人税法施行令の規定、少額減価償却資産・一括償却資産の取扱いとして施行令第133条・第133条の2など)。会計上の減損テストそのものは税務と同一ではありませんが、未使用資産・休止資産が生じている場合、(1) そもそも事業計画上の位置付けが曖昧になりやすい、(2) 追加投資や再稼働判断と絡んでCF見積りが恣意的になりやすい、という意味で、減損兆候の点検や監査説明に影響しやすい点は押さえておくべきです。

減損の兆候と日本基準

IFRSの減損兆候を具体例で確認する

IAS第36号では、資産またはCGUについて、減損の兆候(impairment indicators)があるかを期末ごとに検討し、兆候が識別される場合に回収可能価額の算定(減損テスト)へ進みます。兆候は、外部情報と内部情報の双方から把握します。

兆候の代表例(外部情報・内部情報)
  • 外部情報:市場価格の著しい下落や、技術・市場・法規制・経済環境の重大な悪化が生じていることです。
  • 外部情報:市場金利や市場利回りの上昇により、割引率が上がって使用価値(現在価値)が低下することです。
  • 外部情報:株式時価総額が純資産の帳簿価額を下回るなど、市場が企業価値を切り下げている状況です。
  • 内部情報:資産の陳腐化、物理的損傷、稼働休止など、使用可能性が低下していることです。
  • 内部情報:事業撤退や再編などにより、使用方法・使用計画が変更された(または変更予定となった)ことです。
  • 内部情報:当該資産またはCGUの業績が、予測より悪化している(または悪化が見込まれる)ことです。

割引率の観点では、実務で検証しやすいベースとして、残存耐用年数に対応する国債利回り(無リスク利子率の代表)を参照し、そこに事業固有のリスクプレミアムを加味して整合的に説明する整理が用いられます。国債の発行年限(通常5年、10年、20年など)と資産の残存耐用年数が一致しない場合があるため、残存耐用年数に対応する利回りを求める工夫(例:線形補完)を検討する、という実務上の視点も重要です。

日本基準の兆候との違いを比べる

IFRS(IAS第36号)と日本基準の違いは、兆候の「感じ方」よりも、兆候後の判定・測定プロセスで顕在化しやすいです。日本基準では、兆候がある資産グループについて、まず割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額を比較し、将来CFが帳簿価額を下回る場合に「減損損失を認識すべき」と判断する、という整理が典型です(この段階では時間価値を考慮しません)。

これに対してIFRSは、兆候が識別された場合、回収可能価額(使用価値または処分コスト控除後の公正価値のいずれか高い方)を見積もり、帳簿価額との差額を減損損失として測定します。結果として、IFRSの方が、割引率・成長率・事業計画の実現可能性などの前提が損益に与える影響が相対的に大きく、監査で問われるポイントも「なぜその前提が合理的か」に寄りやすいです。

予算未達でも兆候になるのはどこからか|実績・予算・見通しのずれで判断する

予算未達が直ちに減損兆候になるかは、単発か構造的か、また将来見通しにどの程度織り込まれるべきかで判断が分かれます。特にIFRSでは、形式的な数値基準に限定せず、見積りの前提が崩れているかを実務的に評価するため、実績・予算・見通しの「ズレの質」を説明できる状態が重要です。

実績・予算・見通しのずれを兆候として評価する観点
  • ズレが一時要因か構造要因かを区分し、翌期以降の回復の蓋然性を示せるかです。
  • 乖離が複数期にわたり継続し、事業計画の前提(数量・単価・コスト構造)が修正を迫られていないかです。
  • 予算策定の精度(過去の達成度)と比較し、計画の信頼性が毀損していないかです。
  • 将来CFの見積りに、未確定の改善施策や増収シナリオが過度に含まれていないかです。

また、DCFの説明では「5年先を精緻に当てる」という発想ではなく、3年〜5年程度で区切って、その後を一定の成長仮定で残余価値(ターミナル・バリュー)として扱う実務が一般的である、という前提整理が役に立ちます。重要なのは期間年数そのものではなく、区切り方が経営管理実態と整合し、監査・投資家が検証可能な根拠を伴っていることです。

PBR低下や時価総額割れを見たときに、資産減損の検討へ進む会社・進まない会社の分かれ目

株式時価総額が純資産の帳簿価額を下回る状況は、IAS第36号の外部兆候として典型的に論点になります。加えて資本市場実務では、PBRが1倍割れの状態は「割安」と捉えられ、アクティビストに狙われやすい類型としても整理されています。したがって、PBR低下や時価総額割れが見えた局面では、減損の要否だけでなく、投資家説明・ガバナンス対応を含めた論点整理が必要になります。

減損検討へ進まない(直ちにテストの深掘りをしない)会社が成立するのは、株価下落が市場全体要因などであり、資産またはCGUの将来キャッシュ・フロー創出力が毀損していないことを、合理的なエビデンスで説明できる場合に限られます。たとえば、使用価値と市場評価の乖離要因を感応度分析等で示し、割引率・成長率の合理的範囲内で回収可能価額が帳簿価額を上回ることを説明できるかが分水嶺になります。反対に、株価下落が収益力低下や市場シェア縮小など事業構造の悪化を反映している場合、兆候としての説得力が高まり、回収可能価額の再見積りに進む実務対応が求められます。

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資産評価とCGUの決め方

資金生成単位で資産をグルーピングする

資金生成単位(CGU)は、他の資産や資産グループから概ね独立したキャッシュ・インフローを生み出す最小の識別可能な資産グループです。可能な限り個別資産単位で回収可能価額を識別するのが原則ですが、実務では工場・店舗・サービス基盤など、単体で独立の現金流入を生みにくい資産が多いため、CGUでの評価が中心になります。

CGU設定では「どの単位で社内が実際に儲けを見ているか(管理実態)」が問われます。過度に大きい単位でまとめると減損を先送りしやすく、過度に細かい単位に切ると毎期の見積り負荷と説明負担が過大になります。

加えて、将来CFが帳簿価額を下回るかを判定する枠組みとして、日本基準では「割引前将来CF<帳簿価額」という形で資産グループ単位の判定整理が示されます。IFRSでもこの式をそのまま使うわけではありませんが、CGU単位で「どの範囲のキャッシュ・インフロー/アウトフローを入れているか」をブレずに定義しないと、使用価値の算定が恣意的になるリスクが高まります。

のれん配分と毎期テストの進め方

のれんは単独でキャッシュ・インフローを生みにくいため、企業結合によるシナジーから便益を得ることが見込まれる最小のCGUまたはCGUグループに配分します。IFRSではのれんは非償却であるため、減損兆候の有無にかかわらず、毎期(少なくとも年に一度)減損テストが必要となる点が実務上の重要事項です。これは、日本基準の「20年以内の均等償却」によって費用化が時間分散される構造と対照的で、減損時に損失が集中しやすいことを意味します。

のれんを含むCGUの減損テスト(配分の基本順序)
  1. CGU(またはCGUグループ)の帳簿価額を集計し、配分済みののれんを加えた帳簿価額合計を把握します。
  2. 当該CGUの回収可能価額(使用価値と処分コスト控除後の公正価値の高い方)を算定します。
  3. 回収可能価額が帳簿価額を下回る場合、その差額を減損損失として認識します。
  4. 認識した減損損失は、まずのれんの帳簿価額から優先的に控除し、残額があれば他の資産へ帳簿価額比で配分します。

本社費・共通資産をどこまでCGUへ配賦するか|事業部別管理資料でそろえる判断基準

本社建物などの共通資産や本社部門の共通費用は、CGUへ「配賦できるか」が論点になります。合理的で継続的な基準により、各CGUに配賦できる部分は配賦して通常の減損テストに含めますが、直接の配賦が困難な共通資産は、個別CGUの判定後に、上位の単位(複数CGUを束ねた単位や全社単位)でまとめて検討するアプローチになります。

実務で最も重要な拠り所は、日常的に使っている事業部別の管理会計資料です。監査対応の観点でも、配賦基準や管理区分が、経営意思決定で使われる区分と整合しているほど説明が通りやすくなります。

また、割引率の説明補強として、残存耐用年数に対応する国債利回りを参照する場合、国債年限が資産の耐用年数と一致しないことがあるため、線形補完等で耐用年数に対応する利回りを求めるという手順も、共通資産を含む長期資産の評価で論点になり得ます(重要なのは手法よりも、一貫性と検証可能性です)。

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回収可能価額の算定方法

使用価値と公正価値の違いを整理する

回収可能価額は、処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方です。公正価値(処分コスト控除後)は市場参加者視点の価格であり、企業固有の事情をできるだけ排して「市場でいくらか」を反映します。他方、使用価値は企業固有の利用計画・効率・制約を反映し、将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いて算定します。

市場性の高い資産は公正価値が参照しやすい一方、特注設備や専用システムのように売却市場が乏しい資産は、使用価値が実務上の主戦場になります。いずれを採用しても、最終的には「高い方」で回収可能価額を決めるため、両者を同じCGU定義・同じ前提整合のもとで比較可能にしておくことが重要です。

キャッシュフローと割引率を設定する

使用価値の算定は、(1) 将来キャッシュ・フロー見積りと、(2) 税引前割引率の設定が要諦です。将来キャッシュ・フローは、経営陣が承認した最新の事業計画に基づける一方で、計画に含まれる施策が「測定日時点で確定しているか」を峻別する必要があります。

割引率は、貨幣の時間価値と資産固有リスクを反映した税引前の利率が求められます。実務では、無リスク利子率の代表として国債の流通利回りを参照し、対象資産の残存耐用年数との対応を意識して設定根拠を組み立てます。

割引率設定で監査上説明しやすい整理
  • 見積期間に対応する貨幣の時間価値として、利付国債の流通利回りなどを参照していることを示します。
  • 残存耐用年数に対応する国債利回りを使う整理は一般的で、無リスク利子率としての認知度・入手容易性が説明に使えます。
  • 国債の発行期間(5年・10年・20年等)と残存耐用年数が一致しない場合は、線形補完などで対応利回りを求める考え方があります。
  • 例として、残存耐用年数が30年と40年の間の38年なら、30年と40年の利回り差に0.8を乗じて30年利回りに加算する方法が説明の型になります。

なお、キャッシュ・フロー側ですでに織り込んだリスクを、割引率側でも重ねて調整してしまう二重カウントは、誤りとして指摘されやすい論点です。前提の所在(CF側か割引率側か)を明確にし、感応度分析とセットで整合性を示す運用が実務的です。

計算例で算定イメージをつかむ

計算例として、にあるDCFの表の考え方(将来CFを割引率で現在価値に割り引き、残余価値を加えて合計する)に沿ってイメージを具体化します。たとえば、将来キャッシュ・フローを各年ごとに割引し、残余価値を最終年度以降の成長仮定で算定して合計する、という流れです。

区分 2010 2011 2012 2013 2014 残余価値 合計
強気ケース(割引後CF) -3,571 5,102 27,697 56,747 68,610 179,692 334,277
基本ケース(割引後CF) -7,143 0 19,315 47,636 43,137 112,977 215,923
需要減ケース(割引後CF) -10,714 -5,102 7,653 26,031 26,960 70,611 115,439
将来キャッシュフローを割り引く例

の例では、割引率を40%として現在価値を計算し、残余価値は2015年以降に一定の成長率(10%)で成長すると仮定して算定しています。実務でこの水準の割引率が妥当になるケースは限定的ですが、ここで押さえるべきポイントは、(1) 割引率が高いほど現在価値は小さくなる、(2) 残余価値の置き方が評価結果に大きく効く、(3) 前提が変われば結論が変わるため感応度分析が必須、という構造理解です。

事業計画をそのまま使えないケースとは|再編・拡張投資・未承認施策をCFから外す線引き

経営陣が承認した事業計画であっても、減損テストの使用価値に用いる将来キャッシュ・フローへ、そのまま全項目を入れられるとは限りません。IAS第36号の考え方は、評価対象資産が測定日時点の現状の能力・状態で生み出すキャッシュ・フローに基づいて測定する点にあります。

使用価値のCFから除外・調整が必要になりやすい項目
  • 将来の事業再編(リストラ、拠点統廃合等)で、測定日時点で企業が確定的な約束をしていないものです。
  • 能力拡張や新規投資により将来の業績向上を見込む施策で、未承認の設備投資や増収効果を含むものです。
  • DCF上の残余価値について、根拠の薄い高成長仮定を置いている場合は、成長率の合理性を再点検する必要があります。

また、の例でも、長期の予測は不確実性が高いため、事業計画を3年〜5年で区切り、その後を残余価値として扱う整理が示されています。ここで重要なのは、年数の固定ではなく、(1) 経営管理の実態に即した区切り方、(2) 区切り後の成長仮定の根拠、(3) 前提変更時の影響を示す感応度分析の準備です。

IFRS減損の認識と開示

減損損失の認識と測定を行う

回収可能価額が帳簿価額を下回る場合、その差額を減損損失として認識し、帳簿価額を減額します。CGUで測定した減損損失をCGU内の資産へ配分する場合、のれんがあるときは配分順序が重要です。

CGUにおける減損損失の配分と下限制約
  1. 減損損失は、まず配分済みののれんの帳簿価額から控除します。
  2. 残額がある場合のみ、CGU内の他の資産へ帳簿価額比で配分します。
  3. ただし各資産の帳簿価額は、処分コスト控除後の公正価値・使用価値・ゼロのうち最も高い額を下回るまで減額できません。
  4. 下限制約で配分しきれない金額が出た場合は、下限に達していない他資産へ再配分します。

日本基準側の整理としては、兆候ありの資産グループについて、将来生み出すキャッシュ・フロー(割引前)が帳簿価額を下回れば「減損損失を認識すべき」と判断する、という認識判定の説明枠組みが示されています。IFRS移行プロジェクトでは、社内の意思決定・資料体系が日本基準の二段階思考(割引前→割引後)に引っ張られていないかを点検し、IAS第36号の回収可能価額中心の説明に組み替えることが実務上のポイントになります。

営業利益への影響と会計処理を確認する

IFRSでは、減損損失は当期損益に反映されます。表示区分は企業の方針と取引の性質によりますが、IFRSには日本基準のような「特別損益」概念が明確に置かれないため、営業利益段階に含めて表示される設計となるケースが多く、経営指標への影響がより直接的に見えやすくなります(同じ減損でも、見せ方が変わることで投資家の理解が変わり得ます)。

また、減損後は改定後の帳簿価額を新たな基礎として、残存耐用年数にわたり減価償却費が再計算されます。にある販管費例でも「減価償却費」が管理指標として大きく動き得ることが示唆されており、減損は当期の一括損失だけでなく、翌期以降の償却負担を変化させ、営業利益の構造(固定費の見え方)にも影響します。財務分析・予実管理の整合という観点では、この二次的影響も含めて説明資料を整える必要があります。

戻入れの要件とのれんの扱いを整理する

IFRSでは、過去に認識した減損損失について、減損が減少または消滅したことを示す兆候がある場合、回収可能価額を再見積りして戻入れ(減損損失の戻し)を行うことがあります。一方、日本基準では戻入れが禁止されているため、この差は移行後の業績変動要因として重要です。

ただし、戻入れには重要な制限があります。

戻入れの重要制限(IFRSの実務上の押さえどころ)
  • のれんの減損損失は戻入れ不可であり、業績回復があっても回復計上できません。
  • 有形固定資産や一般の無形資産の戻入れは、減損が無かったと仮定した場合の減価償却後帳簿価額を上限とし、それを超えて帳簿価額を引き上げられません。

また、のれんに関しては、日本基準では20年以内の均等償却により期間配分される一方、IFRSでは非償却で毎期の減損テストが重要になるため、戻入れ不可の制約と合わせて「下げたら戻せない」性質が強く意識されます。経営管理としては、買収後の統合計画やKPIの達成状況と、減損兆候の把握・説明資料を一体運用する必要があります。

注記で示す主要な判断とCGU情報

IAS第36号に基づく減損会計では、注記で主要な見積り・仮定を示すことが、数値計上そのものと同等に重要です。特に、のれんや耐用年数を確定できない無形資産が配分された重要なCGUについては、投資家がリスク評価できるレベルの情報が求められます。

注記で焦点になりやすい開示項目(実務の最小セット)
  • CGU(またはCGUグループ)に配分されたのれんの帳簿価額です。
  • 回収可能価額の算定基礎が、使用価値か処分コスト控除後の公正価値かの区分です。
  • 将来キャッシュ・フローの予測期間(事業計画期間)と、残余価値の置き方(成長仮定の考え方)です。
  • 適用した税引前割引率と、その設定根拠(国債利回り参照や補完方法を含む説明)です。
  • 主要仮定(割引率・成長率等)が合理的に想定される範囲で変化した場合の感応度分析です。

にあるように、国債利回りは無リスク利子率の代表指標として説明しやすい一方、残存耐用年数との対応関係(5年・10年・20年などの年限差)をどう埋めるかは、注記・監査の双方で突っ込まれやすい論点です。ここは「何を使ったか」だけでなく、「なぜその方法が当該資産にとって合理的か」「前年からの変更があればなぜ変更したか」まで含めて、説明の再現性を持たせる必要があります。

監査対応で詰まりやすい資料は何か|経営会議資料・承認履歴・感応度分析のそろえ方

監査で詰まりやすいのは、使用価値の算定に使った将来キャッシュ・フローが「合理的な見積り」と言えるだけの裏付けが揃っているかです。監査人は、数値の整合だけでなく、社内承認プロセスと過去実績との比較により、計画の実現可能性を検証します。

監査で求められやすい裏付け資料の型
  • 経営会議・取締役会での事業計画資料と、議事録等による承認履歴です。
  • 過去の計画と実績の比較(達成度)と、乖離要因の説明資料です。
  • 割引率の根拠資料として、見積期間に対応する無リスク利子率(国債利回り等)と、残存耐用年数に対応させる考え方(必要なら線形補完の説明)です。
  • 主要仮定(割引率上昇、成長率低下等)が変動した場合の感応度分析と、回収可能価額が帳簿価額を上回る余裕(ヘッドルーム)の説明です。

DCFは一見精緻に見えても前提次第で結論が動くため、割引率・成長率・残余価値の置き方に関して「えいや」になっていないことを、感応度分析と根拠資料で示す重要性が示唆されています。監査対応としては、計算モデルそのものよりも、前提の統制(誰が、いつ、何を根拠に、どの会議体で決めたか)を、後追いで再現できる形に整えることが実務の急所です。

よくある質問

IFRSの減損は何年ごとにテストしますか?

減損テストの頻度は、資産の性質により整理が異なります。のれんはIFRSで非償却であるため、償却で費用配分する代わりに毎期の減損テストが重要になります(少なくとも年に一度、同一時期に実施する運用設計が実務上の基本です)。

一方、耐用年数が確定している有形固定資産や無形資産は、期末ごとに兆候の有無を点検し、兆候がある場合に回収可能価額を見積もってテストを行う、という整理になります。ここでのポイントは、兆候の検討と、割引率(国債利回り参照など)の前提見直しが、期末のルーティンとして回る設計になっているかです。

減損テストのキャッシュフローに設備投資は含めますか?

使用価値の将来キャッシュ・フローには、すべての設備投資を無条件に含めるのではなく、「現状維持」と「能力拡張」を峻別して取り扱うのが基本です。将来の再編や拡張投資の期待効果を安易に織り込むと、DCFの結論が前提依存で揺れることが示唆されています。

設備投資の取り扱い(線引きの実務ポイント)
  • 資産の現在の稼働状態・能力を維持するために必要な維持更新の支出は、将来CFに含めて整合を取ります。
  • 能力増強を目的とする未承認の設備投資や、それに伴う増収効果は、測定日時点で確定していない限り将来CFから除外します。
  • 残余価値(ターミナル・バリュー)に成長仮定を置く場合も、その成長が拡張投資前提になっていないかを点検します。

日本基準からIFRSへ移行した場合に減損損失は戻入れできますか?

IFRS移行後は、IAS第36号の戻入れ規定が適用されるため、条件を満たせば、過去に減損を認識した資産について回収可能価額を再見積りして戻入れを行うことがあります(日本基準では戻入れが禁止されている点が大きな差です)。

ただし、戻入れの可否と上限には重要な制約があり、移行後も同様に守る必要があります。

移行後の戻入れで必ず確認する制約
  • のれんに関する減損損失は、IFRS移行後であっても戻入れできません。
  • 有形固定資産等の戻入れは、減損が無かったと仮定した場合の減価償却後帳簿価額を上限として、それを超える戻入れはできません。

移行プロジェクトでは、過年度に日本基準で減損を計上した資産について、移行後に状況が好転した場合の取り扱い(戻入れの兆候の識別、上限の算定、注記方針)まで、会計方針・内部統制・開示のセットで整備しておくことが重要です。

IFRS減損への対応で次にすべきこと

IFRS減損は、回収可能価額(使用価値/処分コスト控除後の公正価値)の見積りと、CGU設定・のれん配分の整合が、損益と開示の双方を左右します。日本基準の20年以内の均等償却と異なり、のれんは非償却で毎期テストが前提となるため、兆候点検から前提更新までを期末の作業として回せる体制が重要です。判断の軸としては、兆候があるかだけでなく、割引率(国債利回り参照や必要な補完)・成長仮定・残余価値の置き方が「合理的な根拠で説明できるか」を中心に据えると整理しやすくなります。次アクションとして、事業計画の承認履歴、過去の計画対実績、感応度分析、CGU単位の管理会計資料が揃っているかを点検し、必要に応じて監査人・社内の経理財務/法務と論点を事前にすり合わせてください。個別の事案では資産の性質や取引背景で結論が変わり得るため、重要性が高い場合は専門家の助言も踏まえて進めることが実務上の安全策です。



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