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債権執行とは?手続きの流れから必要書類、費用までを解説

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取引先からの売掛金や貸付金が回収できず、法的手段を検討されている企業の担当者の方も多いのではないでしょうか。債権回収の強力な手段である「債権執行」は、手続きが複雑で、どの財産を対象にすべきか、どのような書類が必要かなど、実務上の判断が求められます。この記事では、債権執行の申立てから債権回収が完了するまでの具体的な手続きの流れ、必要書類、費用、そして成功率を高めるための注意点までを体系的に解説します。

目次

債権執行とは?強制執行における位置づけと対象財産

債権執行の概要と強制執行との関係性

債権執行とは、金銭の支払いを怠る債務者に対し、その債務者が第三者(第三債務者)に対して有する債権を差し押さえ、強制的に回収する裁判所の手続きです。これは、国家が個人の権利実現を助ける強制執行の一種であり、特に金銭債権の回収を目的とする金銭執行に分類されます。

日本では、債権者が実力で権利を回復する「自力救済」が禁止されているため、必ず法的な手続きを踏む必要があります。判決などの債務名義を得た上で、法に則って財産を差し押さえるのが原則です。これを無視すれば、たとえ正当な債権があっても住居侵入罪や窃盗罪などの刑事罰に問われる可能性があります。

強制執行には様々な種類がありますが、債権執行は対象財産に特徴があります。

種類 対象財産 特徴
不動産執行 土地、建物など 手続きが複雑で、予納金が高額。完了まで1年近くかかることも多い。
動産執行 自動車、貴金属、現金など 執行官が現地で差し押さえる。価値のある動産がなければ空振りに終わる。
債権執行 預貯金、給与、売掛金など 費用が比較的安価で、手続きも迅速。債務者の協力がなくても進められる。
強制執行の主な種類と比較

このように、債権執行は申立費用が数千円程度と比較的低コストで、回収までの期間も数週間から数ヶ月と短い点が実務上の大きなメリットです。債務者の債務者である「第三債務者」が手続きに関与する三者間の構造を持つ点が、他の強制執行との大きな違いです。

差押えの対象となる主な債権の種類(預貯金・給与・売掛金など)

債権執行では、債務者が第三者に対して有する、金銭の支払いを求めることができる権利(金銭債権)が差押えの対象となります。実務上、対象となることが多いのは以下のような債権です。

差押えの対象となる主な債権
  • 預貯金債権:銀行などの金融機関に対する預金の払戻請求権
  • 給与債権:勤務先から支払われる給料や賞与を受け取る権利
  • 売掛金債権:取引先に対して有する売買代金などの請求権
  • 賃料債権:賃貸不動産の借主から家賃を受け取る権利
  • 保険解約返戻金請求権:生命保険契約などを解約した際に返還される金銭
  • 税金還付請求権:国や地方自治体から還付される税金を受け取る権利

差押えの効果は、原則として差押命令が第三債務者に届いた時点の権利に及びます。例えば預金の場合、差押え時の残高が対象となり、その後の入金分には効力が及びません。そのため、給料日などを狙ってタイミングを計ることが重要です。

また、公的年金の受給権そのものは法律で差押えが禁止されていますが、一度銀行口座に振り込まれると法的には単なる預金債権となり、差押えの対象となる可能性があるため注意が必要です。

法律で定められた差押禁止債権

債権執行は強力な手続きですが、債務者の生活を保障するため、法律で差押えが禁止されている財産(差押禁止債権)が定められています。

代表的なものが給与債権です。債務者の生活維持のため、原則として手取り額の一部は差押えが禁止されています。

給与等の手取り月額 差押えが禁止される範囲 差押えが可能な範囲
44万円以下 手取り額の4分の3 手取り額の4分の1
44万円超 33万円 手取り額から33万円を引いた全額
給与債権の差押禁止範囲(原則)

ただし、請求する権利が養育費や婚姻費用など、扶養義務に関するものである場合は、債務者の生活を支えるという権利の性質上、差押可能範囲が手取り額の2分の1まで拡大されます。

このほか、社会政策的な配慮から、以下の権利なども全額が差押禁止とされています。

主な差押禁止債権(給与以外)
  • 国民年金、厚生年金などの公的年金受給権
  • 生活保護法に基づく生活保護受給権
  • 中小企業退職金共済法に基づく退職金など

これらの給付金は、支給機関から直接差し押さえることはできません。しかし、銀行口座に振り込まれた後は預金として差押えの対象となり得るため、生活に不可欠な資金が差し押さえられた場合は、裁判所に差押禁止債権の範囲の変更の申立てを行うことで救済を求めることができます。

債権執行の申立てに不可欠な「債務名義」

債務名義の役割と執行文の付与

強制執行を申し立てるには、債務名義と呼ばれる公的な文書が不可欠です。債務名義は、債権者が強制執行を行う権利(請求権)の存在と内容を公的に証明する役割を果たします。

しかし、多くの場合、債務名義を取得しただけでは直ちに強制執行はできません。債務名義の正本の末尾に「この債務名義に基づき強制執行できる」という旨を公的に証明してもらう執行文の付与という手続きが必要になります。執行文は、その債務名義が現在も有効で執行力があることを証明するものであり、執行機関はこれがあることで権利内容を改めて調査することなく、迅速に手続きを進めることができます。

ただし、仮執行宣言付支払督促や少額訴訟の判決など、一部の債務名義は迅速性を重視して執行文の付与が不要とされています。

債務名義となる主な文書とその取得方法

債務名義にはいくつかの種類があり、それぞれ取得方法が異なります。請求書や契約書だけでは債務名義にはならず、必ず公的機関が発行した文書が必要です。

主な債務名義の種類
  • 確定判決:訴訟で勝訴し、控訴期間が満了するなどして内容が確定したもの。
  • 仮執行宣言付判決:判決の確定を待たずに強制執行ができると裁判所が認めたもの。
  • 和解調書・調停調書:裁判上の話し合い(和解・調停)で合意した内容を記したもので、確定判決と同一の効力を持つ。
  • 執行認諾文言付公正証書(執行証書):支払いが滞れば強制執行を受けることを承諾する文言が入った公正証書。訴訟を経ずに執行できるため強力。
  • 仮執行宣言付支払督促:書類審査のみで行われる簡易な手続き(支払督促)を経て得られるもの。

特に、執行認諾文言付公正証書は、契約時に作成しておくことで、トラブル発生時に裁判手続きを省略できるため、時間と費用の大幅な節約につながります。

債権執行の申立てから回収までの手続きの流れ

申立ての準備:必要書類と費用の内訳

債権執行を申し立てるには、事前の準備が重要です。主に以下の書類と費用が必要になります。

債権執行の申立てに必要な主な書類
  • 債権差押命令申立書
  • 当事者目録、請求債権目録、差押債権目録
  • 執行力のある債務名義の正本
  • 送達証明書(債務名義が債務者に送達されたことの証明)
  • 資格証明書(当事者が法人の場合の登記事項証明書など)
  • 住民票、戸籍附票など(債務名義上の住所と現住所が異なる場合)

申立てにかかる費用は、実費と専門家への報酬に分けられます。

申立てにかかる主な費用
  • 申立手数料:収入印紙4,000円(債権者・債務者・第三債務者が各1名の場合)
  • 郵便切手代:裁判所からの書類送達に使うための予納郵便切手(裁判所により金額や内訳が異なる)
  • 弁護士費用:弁護士に依頼する場合の着手金や成功報酬など

書類に不備があると手続きが遅延するため、正確な作成が求められます。弁護士に依頼すれば、手続きを迅速かつ確実に進行させることができます。

申立て前に確認すべき第三債務者の情報と注意点

債権執行の申立て時には、差し押さえる債権を具体的に特定する必要があります。例えば、預金であれば金融機関名と支店名まで、給与であれば勤務先の正確な名称と本社所在地を記載しなければなりません。

最も重要な注意点は、差押命令が第三債務者に届いた時点で対象となる財産が存在しなければ、手続きが空振りに終わってしまうことです。預金残高がゼロだったり、債務者が既に退職していたりするケースは少なくありません。そのため、給料日や売掛金の入金日といったタイミングを見計らって申し立てることが、回収の成功率を高める上で極めて重要です。

申立てを行う裁判所の管轄

債権執行の申立ては、原則として債務者の住所地(法人の場合は主たる事務所の所在地)を管轄する地方裁判所に行います。これは専属管轄と定められており、当事者間の合意で変更することはできません。

例えば、東京に本社がある債権者が大阪在住の債務者の給与を差し押さえる場合、申立て先は大阪地方裁判所となります。管轄を間違えると、書類の移送に時間がかかり、その間に財産を処分されるリスクが高まります。

裁判所による債権差押命令の発令と送達

申立てが適法と認められると、裁判所は債権差押命令を発令します。この命令には、債務者に対して「債権の取立てや処分をしてはならない」、第三債務者に対して「債務者への支払いをしてはならない」という二つの効力があります。

差押えの効力を確実にするため、送達は第三債務者へ先に行われ、その後に債務者へと送られます。これは、債務者に先に通知すると、預金を引き出すなどの財産隠しを防ぐためです。

差押えの効力は、差押命令が第三債務者に到達した時点で発生します。この瞬間から、第三債務者は法的に支払いを禁じられます。もしこれに違反して債務者に支払ってしまうと、債権者から二重払いを請求されても拒否できません。

差押債権の取立て方法と回収後の手続き

差押命令が債務者に送達されてから原則として1週間(給与債権などの場合は4週間)が経過すると、債権者は差し押さえた金銭を直接取り立てる権利(取立権)を得ます。手続きの流れは以下の通りです。

差押えから回収完了までの流れ
  1. 差押命令が債務者に送達されてから所定の期間が経過し、取立権が発生する。
  2. 債権者自らが第三債務者(銀行や勤務先)に連絡し、支払い方法を協議して送金を依頼する。
  3. 第三債務者から支払いを受けたら、速やかに裁判所に取立届を提出する必要があります
  4. 全額回収できた場合は取立完了届を、一部回収で終える場合は取下書を提出する。
  5. 複数の差押えが競合した場合、第三債務者は法務局に供託し、裁判所による配当手続きに移行する。

裁判所が代わりにお金を集めてくれるわけではないため、債権者自身が行動する必要があります。また、取り立てが可能になってから2年間放置すると、取立権が失効する場合があります。そのため注意が必要です。

第三債務者との関係性で注意すべきビジネス上のポイント

債権執行は、債務者だけでなく、その取引先である第三債務者にも影響を及ぼす手続きです。特に法人の売掛金を差し押さえた場合、その事実が取引先に知られることで、債務者の社会的信用は大きく低下し、事業継続が困難になる可能性があります。

また、給与の差押えは、勤務先の人事・総務部門に複雑な事務処理の負担を強いることになります。第三債務者は法律上の協力義務を負いますが、手続きに不慣れな担当者との間で摩擦が生じることも考えられます。

債権者としては、法令に基づく正当な権利行使であることを丁寧に説明し、円滑なコミュニケーションを心がけることが重要です。強硬な手段は相手を倒産に追い込むリスクもあるため、差押えをきっかけに債務者から分割払いの申し出があった場合は、和解に応じて柔軟に対応することも、最終的な債権回収の最大化につながる場合があります。

債務者の財産が不明な場合に利用できる法的手続き

財産開示手続の概要と申立ての要件

債務名義を取得しても、債務者がどのような財産を持っているか不明なために回収できない場合があります。そのような場合に有効なのが財産開示手続です。

この手続きでは、裁判所が債務者を呼び出し、自身の財産(不動産、預貯金、勤務先など)の一覧を提出させ、その内容について陳述するよう命じます。最大のポイントは、2020年の法改正で罰則が大幅に強化されたことです。正当な理由なく出頭しなかったり、虚偽の陳述をしたりした場合は、「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑事罰の対象となり、債務者に対する強力な心理的圧力をかけることができます。

申し立てるには、強制執行を試みたものの完全な回収ができなかったことや、判明している財産だけでは回収しきれないことが明らかであることなどの要件を満たす必要があります。

第三者からの情報取得手続の活用

第三者からの情報取得手続は、債務者本人ではなく、金融機関や市区町村、法務局といった第三者機関から直接、財産情報を取得できる制度です。債務者が財産を隠していても、客観的な情報を効率的に収集できます。

情報提供機関 開示される主な情報 財産開示手続の先行実施
金融機関 預貯金口座の有無、支店名、残高など 原則不要
法務局 債務者名義の不動産の所在地など 原則必要
市区町村 勤務先の名称・所在地(住民税情報から) 原則必要
日本年金機構など 勤務先の名称・所在地(社会保険料情報から) 原則必要
第三者からの情報取得手続で開示される情報

特に金融機関からの預貯金情報は、財産開示手続を経ずに申し立てられるため、迅速な調査が可能です。情報を取得した後は、その事実が債務者に通知される前に速やかに差押えを申し立てることが成功の鍵となります。

債権執行に関するよくある質問

債権執行手続きには、どのくらいの期間がかかりますか?

申立てから裁判所が差押命令を発令するまでは、書類に不備がなければ通常1週間程度です。その後、書類が送達され、債権者が実際に取り立てられるようになるまでを含めると、全体で1か月から2か月程度で完了するケースが多いです。ただし、債務者の住所が不明な場合や、複数の債権者間で配当手続きが必要になった場合は、半年以上かかることもあります。

弁護士に依頼せず、自分で手続きを行うことは可能ですか?

はい、法律上はご自身で手続きを行うことが可能です。裁判所のウェブサイトなどで書式も公開されています。しかし、申立書類には厳格なルールがあり、差押債権の特定や利息計算などが不正確だと受理されなかったり、手続きが遅れたりするリスクがあります。財産調査や第三債務者との交渉も含め、確実性とスピードを重視するなら、弁護士に依頼するメリットは大きいと言えます。

第三債務者(銀行や勤務先など)が支払いに応じない場合はどうなりますか?

正当な理由なく第三債務者が支払いを拒否する場合、債権者はその第三債務者を被告として取立訴訟という裁判を起こすことができます。この訴訟で勝訴すれば、第三債務者自身の財産に対して強制執行を行うことが可能になります。通常、金融機関や大手企業が支払いを拒否することは稀ですが、万が一の際には法的な対抗手段が用意されています。

債権執行が失敗に終わるケースはありますか?

はい、失敗するケースはあります。最も多いのは、差し押さえた預金口座の残高がゼロだった(空振り)、あるいは債務者が既に勤務先を退職していた、といった場合です。また、税金の滞納による差押えなどが先行していると、そちらが優先されるため回収できないこともあります。こうした失敗を防ぐには、事前の財産調査と、給料日などの最適なタイミングを狙って申し立てる戦略が重要です。

債権執行が不奏功だった場合、次に何を検討すべきですか?

一度の債権執行が失敗(不奏功)に終わっても、諦める必要はありません。債務名義の時効は原則10年あるため、その期間内であれば何度でも執行を試みることができます。まずは財産開示手続第三者からの情報取得手続を活用して、他に差し押さえられる財産がないか徹底的に調査すべきです。定期的に債務者の状況を調査し、転職先や新たな財産を発見した時点で、再度申立てを行うことが有効な手段となります。

まとめ:債権執行を成功させる鍵は「事前の財産調査」と「専門家の活用」

本記事では、債権執行の申立てから回収までの具体的な手続きと注意点を解説しました。債権執行は、判決などの債務名義に基づき、預金や売掛金といった債務者の財産を強制的に回収する強力な法的手段です。手続きを成功させるには、債務名義の取得はもちろん、差押え対象となる財産(預金口座の支店名や勤務先など)を正確に特定するための事前の情報収集が極めて重要となります。申立て後は、裁判所による差押命令の発令、第三債務者への送達を経て、債権者自身が取立てを行う流れとなります。万が一、債務者の財産が不明な場合でも、財産開示手続や第三者からの情報取得手続といった調査手段が用意されています。債権執行は空振りに終わるリスクもあり、書類作成も専門知識を要するため、手続きの確実性とスピードを重視する場合は弁護士への相談が有効な選択肢です。

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