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差押中止命令とは?破産・民事再生で強制執行を停止する手続きと効果

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債権者から給与や預金、売掛金などを差し押さえられ、事業の継続や日々の生活に深刻な影響が及んでいる状況は、極めて大きな不安を伴います。このような危機的状況を打開するため、破産や民事再生といった法的手続の中で、進行中の強制執行を一時的に停止させる強力な手段が存在します。この記事では、法的整理手続において強制執行を停止させる「差押中止命令」について、その目的や要件、具体的な申立て手続き、そして関連制度との違いまでを網羅的に解説します。

差押中止命令とは?強制執行を停止させる制度の概要

差押中止命令の目的と法的根拠

差押中止命令は、破産手続や民事再生手続といった法的な債務整理が円滑に進むよう、個別の債権者による強制執行を一時的に停止させる裁判所の決定です。これにより、債務者の財産を保全し、すべての債権者への公平な分配や事業再生の実現を目指します。

この命令の主な目的は以下の通りです。

差押中止命令の主な目的
  • 個別の強制執行による財産の散逸を防止し、債務者の財産を保全する
  • 特定の債権者だけが優先的に弁済を受けることを防ぎ、債権者間の公平を確保する
  • 事業に必要な資産の差押えを止め、事業の再生・再建を可能にする

法的根拠は、破産法第24条第1項第1号および民事再生法第26条第1項第2号に規定されています。特に事業の再建を目指す民事再生手続では、売掛金や事業用口座が差し押さえられると事業継続が不可能になるため、この制度は極めて重要な役割を果たします。

申立てが認められるための基本的な要件

差押中止命令が認められるには、その差押えを「中止する必要性」があることを、申立人が証拠に基づいて具体的に説明(疎明)しなければなりません。中止の必要性とは、強制執行がこのまま続くと、破産手続や民事再生手続の目的達成が著しく困難になる状況を指します。

具体的には、以下のようなケースで必要性が認められやすくなります。

「中止の必要性」が認められる具体例
  • 事業の運転資金や従業員の給与支払いに充てる銀行口座が差し押さえられ、資金繰りが破綻する場合
  • 個人再生において、給与が差し押さえられることで再生計画の履行に必要な積立てができなくなる場合
  • 会社の主要な売掛金が差し押さえられ、事業の継続が事実上不可能になる場合

裁判所は、申立人から提出される収支状況や資金繰り表などの資料を審査し、差押えの継続が手続全体に与える影響を慎重に判断します。実務上は、裁判所が職権で発令することはまれであり、債務者側からの積極的な申立てが必須です。

差押中止命令の対象となる強制執行手続

差押中止命令の対象となるのは、原則として、破産債権や再生債権といった法的整理の対象となる債権に基づく強制執行手続全般です。これには、給与、預貯金、売掛金などに対する債権差押えや、不動産・動産の強制競売などが含まれます。ただし、この命令は既に開始された手続を一時的に止めるものであり、将来の差押えを事前に防ぐ効力はありません。これから行われる可能性のある差押えを広く禁止するには、別途「包括的禁止命令」の申立てが必要です。

一方で、以下の手続は原則として差押中止命令の対象外となります。

原則として対象外となる手続
  • 租税等の滞納処分: 税金や社会保険料などの公租公課に基づく差押えは、性質が異なるため対象外です。
  • 担保権の実行としての競売: 抵当権などに基づく競売は「別除権」として強力に保護されており、中止させるにはより厳格な要件を満たす必要があります。

【手続別】差押中止命令の申立て手続きと流れ

破産手続における申立ての流れとポイント

破産手続中に給与や預金の差押えを放置すると、特定の債権者が優先的に弁済を受けることとなり、債権者平等の原則に反する事態となります。これを防ぐため、迅速に差押中止命令を申し立てる必要があります。

申立てから差押えが停止するまでの基本的な流れは以下の通りです。

破産手続における差押中止の申立て手順
  1. 破産手続の申立てと同時、または申立て後速やかに、破産裁判所へ「強制執行中止命令申立書」を提出する。
  2. 裁判所が緊急性と必要性を認め、中止命令を発令する。
  3. 申立人(または代理人弁護士)が、発令された中止命令の正本を執行裁判所へ持参し、「執行停止の上申書」を提出する。
  4. 執行裁判所が執行停止を決定し、勤務先や金融機関(第三債務者)へ通知する。
  5. 第三債務者が債権者への送金を停止する。

最も重要なポイントは、破産裁判所から命令が出ただけでは差押えは止まらないという点です。実際に強制執行を行っている執行裁判所へ上申して初めて、現場の送金が停止されます。この手続を迅速に行わないと、その間に給与などが取り立てられてしまうため、専門家によるスピーディーな対応が不可欠です。

民事再生手続における申立ての流れとポイント

民事再生手続では、申立てから開始決定までに数週間かかることがあり、その間に債権者が一斉に差押えを行うリスクがあります。そのため、再生手続の申立てと同時に差押中止命令を申し立てることが実務上の定石です。

民事再生手続における申立てでは、単に財産を保全するだけでなく、事業継続の維持という観点がより強く求められます。個人再生においても、給与の差押えが続けば再生計画の履行が不可能になるため、差押えが手続に与える致命的な影響を、家計収支表などを用いて具体的に裁判所へ説明する必要があります。

なお、民事再生手続では、開始決定が出されると法律の規定によって強制執行は当然に中止されます。しかし、開始決定を待つ時間的余裕がない緊急事態においては、この個別の差押中止命令を活用し、迅速に財産を保護することが極めて重要です。

申立てに必要な書類と記載事項の要点

差押中止命令の申立てを迅速に進めるには、不備のない書類準備が不可欠です。書類に不備があると手続が遅れ、その間に財産が取り立てられてしまう危険があります。

主な必要書類
  • 強制執行中止命令申立書
  • 債権差押命令決定の写しなど、強制執行事件を特定できる資料
  • 申立手数料としての収入印紙
  • 裁判所からの通知に使用する郵便切手

申立書には、対象となる強制執行事件を正確に特定するための情報と、中止を求める具体的な理由を記載します。

申立書の主要な記載事項
  • 事件の特定情報: 執行裁判所名、事件番号、債権者・債務者名などを正確に記載します。
  • 中止を求める理由: なぜこの差押えを止めなければならないのか(中止の必要性)を、現在の生活状況や事業への影響を踏まえて具体的に主張します。

申立てを行う破産・再生裁判所と、実際に執行を行っている執行裁判所が異なる場合も多いため、それぞれの管轄を正確に把握し、書類提出の段取りを組むことが重要です。

差押中止命令の効果と差押財産の取り扱い

強制執行手続の停止とその効力が及ぶ範囲

差押中止命令が発令されると、強制執行の手続は現状のまま凍結されます。具体的には、差し押さえられた財産を現金化する手続や、債権者へ配当する手続が停止します。

ただし、重要なのは、この命令はあくまで手続を「一時停止」させるだけであり、差押えそのものの効力を消滅させるものではないという点です。したがって、財産に対する処分禁止の効力は維持されます。例えば、差し押さえられた預金は、債権者へ送金されなくなりますが、債務者が自由に引き出せるようになるわけでもありません。その効力は、命令で指定された個別の強制執行事件にのみ及ぶため、複数の差押えがある場合はそれぞれに申立てが必要です。

給与差押えが中止された場合の具体的な影響と注意点

給与の差押えについて中止命令が出ると、勤務先(第三債務者)は、給与から天引きしていた差押え相当額を債権者へ送金することを停止します。しかし、そのお金がすぐに債務者本人に支払われるわけではありません。

給与差押え中止後の注意点
  • 手取り額は増えない: 債務者は、差押え中止後も、差押え対象外の金額しか受け取れません。
  • 差押え相当額の保管: 勤務先は、差押え相当額を社内で留保するか、法務局に供託して保管します。
  • 返還のタイミング: 留保された給与は、破産手続で免責が確定したり、再生計画の認可が確定したりした後に、まとめて本人に返還されるのが原則です。

したがって、中止命令が出た後も、しばらくは手元資金が制限された状態が続くことを念頭に置き、生活費などを計画的に管理する必要があります。

預金口座の差押えが中止された場合の取り扱い

預金口座への差押えが中止されると、金融機関は差押え対象となった預金残高を債権者へ支払うことを停止し、口座内で凍結された状態を維持します。預金差押えは、命令が金融機関に届いた瞬間の残高に対して効力が生じるため、債権者による取立てが完了してしまった後では、中止命令は意味をなしません

中止命令後の口座の取り扱いは以下の通りです。

預金差押え中止後の口座の取り扱い
  • 差押え対象残高の凍結: 差し押さえられた時点の残高は、手続が完了するまで引き出すことはできません。
  • 新規入金の取り扱い: 中止後にその口座へ新たに入金されたお金は、原則として差押えの効力が及ばないため、自由に引き出すことが可能です。

ただし、一度差押えを行った債権者は口座情報を把握しているため、手続が完全に終わるまでは、同じ口座を主たる取引口座として利用し続けることには注意が必要です。

売掛金の差押えが中止された場合の取引先への説明と注意点

事業者が取引先(第三債務者)に対する売掛金を差し押さえられた場合、中止命令が出ると、取引先は債権者への支払いを停止します。しかし、債務者である事業者に対しても支払うことができず、支払いが留保される状態となります。

この状況では、取引先に不安や混乱を与えないよう、丁寧な説明が不可欠です。

取引先への説明ポイント
  • 現在、裁判所の管理下で法的な再建手続を進めていることを誠実に伝える。
  • 裁判所からの中止命令に基づき、支払いを一時的に留保してもらう必要があることを説明する。
  • これは取引先を二重払いのリスクから守るための法的な措置であることを明確にする。

適切な説明を怠ると、取引先との信頼関係が損なわれたり、誤って支払いがなされてトラブルになったりする恐れがあるため、弁護士などを通じて正確な情報を提供することが重要です。

関連制度との違い(当然中止・執行取消)

破産・再生手続の開始決定による「当然中止・失効」との関係性

破産手続や再生手続で「開始決定」が下されると、個別の申立てをしなくても、法律の規定によって進行中の強制執行は自動的に中止されます。これを「当然中止」と呼びます。特に、破産管財人が選任される破産事件では、差押えの効力そのものが消滅する「失効」という、より強力な効果が生じます。

「差押中止命令」と「開始決定による当然中止」は、以下のように使い分けられます。

項目 差押中止命令 開始決定による当然中止・失効
根拠 個別の申立てに基づく裁判所の保全命令 法律の規定による包括的な効果
タイミング 申立て後~開始決定までの間 開始決定と同時
利用場面 開始決定を待てない緊急時に財産を保全する 開始決定後の標準的な差押え停止
差押中止命令と当然中止の比較

実務上、差押えによる取立てが目前に迫っているような緊急性の高いケースでは、開始決定を待たずに個別の差押中止命令を申し立て、迅速な財産保護を図ります。

中止命令と「執行取消命令」の目的と効力の違い

「差押中止命令」と「執行取消命令」は、どちらも強制執行を制限する制度ですが、その効果は全く異なります。「中止」が手続を一時停止させるだけなのに対し、「取消」は差押えの効力そのものを消滅させます。

項目 差押中止命令 執行取消命令
目的 現状を維持し、財産の散逸を防ぐ(現状維持 差押えを解除し、財産を債務者の元へ取り戻す(資産回復
効果 手続の進行を一時停止する 差押えの効力を消滅させる
財産の扱い 差押えられた財産は凍結されたまま 差し押さえられ留保されていた金銭が債務者に返還される
中止命令と執行取消命令の比較

執行取消命令は、民事再生手続において、事業継続に必要な運転資金を確保したり、生活に不可欠な給与を取り戻したりする場合など、差し押さえられた財産を積極的に活用する必要がある場合に申し立てます。ただし、その要件は中止命令よりも厳しくなっています。

どの制度を利用すべきかの判断基準

どの制度を利用すべきかは、債務整理手続の進捗段階と、事態の緊急性によって判断します。

状況別の判断基準
  • 法的整理の申立て前: 訴訟への異議申立てなどで時間を稼ぎつつ、本案申立ての準備を急ぎます。
  • 申立て後~開始決定前の緊急時: 個別の「差押中止命令」を迅速に申し立て、財産の流出を防ぎます。
  • 開始決定が出た後: 「当然中止」の効力を利用し、執行裁判所に開始決定が出たことを上申します。
  • 凍結された財産をすぐに活用したい場合: 要件は厳しいですが、「執行取消命令」の申立てを検討します。

資金繰りの状況や事業への影響などを弁護士と綿密に協議し、その時点での最適な手段を選択することが重要です。

まとめ:差押中止命令を理解し、迅速な財産保全を

本記事では、破産や民事再生手続において強制執行を停止させる「差押中止命令」について解説しました。この命令は、開始決定を待てない緊急時に債務者の財産を守り、債権者間の公平を確保するための重要な保全処分です。申立てには差押えを「中止する必要性」を具体的に疎明する必要があり、裁判所からの命令が出た後も、執行裁判所への上申といった迅速な手続きが求められます。命令の効果はあくまで手続の「一時停止」であり、差押えの効力自体が消滅するわけではない点も理解しておくべき重要なポイントです。差押えは放置すれば事業継続や生活再建の基盤を失いかねない深刻な事態であり、一刻を争います。ご自身の状況でどの制度を利用すべきか正確に判断するためにも、速やかに弁護士などの専門家へ相談し、適切な法的措置を講じることが不可欠です。

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