人事労務

従業員支援プログラムと厚生労働省|4つのケアと導入要件を確認する

経営リスクナビ編集部

従業員支援プログラム(EAP)は、従業員のメンタルヘルス不調による離職・休職や生産性低下を見据えつつ、厚生労働省の指針に沿って社内外の支援導線を整えるための実務的な仕組み(従業員援助プログラム)です。制度の位置づけや情報管理の線引きが曖昧なまま運用すると、相談が活性化しない一方で、面談・記録・共有の設計ミスが労務リスクとして顕在化しやすくなります。標準的な支援期間が3カ月とされる運用整理も踏まえ、自社でEAPを「4つのケア」やストレスチェックとどう組み合わせ、どこまで外部に委ねるかを決める材料が必要です。以下では、EAPの判断材料として指針上の位置づけと実務設計の要点を示します。

目次

EAPと厚生労働省の位置づけ

EAPの定義と従業員支援プログラムの範囲

EAP(Employee Assistance Program:従業員援助プログラム)は、従業員が抱える課題を相談・助言・専門家連携によって早期に整理し、就業継続と組織の安定運営(離職・休職・生産性低下の抑制)につなげる仕組みです。厚生労働省の指針が示す「事業場外資源(社外の支援資源)」の一つとして理解すると、制度的な位置づけを整理しやすくなります。

相談対象はメンタルヘルス不調そのものに限られず、仕事上のストレス要因と結びつきやすい私生活上の課題(家庭、金銭、法律問題等)も含めて扱う設計が一般的です。支援はカウンセラー(公認心理師・臨床心理士等)に加えて、必要に応じて弁護士等の専門家へ接続できることが実務上の価値になります。

また、有料EAPサービスについては、標準的な支援期間が3カ月とされ、事業場に対して定期的に状況報告を行い、必要に応じて職場復帰時の仕事内容や労働条件の設定等への助言・提案を行う運用が想定されています(従業員個人が特定される情報の扱いは別途の同意設計が前提です)。

EAPで取り扱い得る相談テーマ(例)
  • 業務上のストレス要因(業務量、役割葛藤、対人関係など)の整理と対処助言です。
  • ハラスメントを含む職場トラブルの心理的負担に関する相談と、適切な社内導線への案内です。
  • 育児・介護・家族関係など生活課題が就業に影響している場合の相談です。
  • 多重債務等の金銭問題や法的トラブルについて、必要に応じた専門家連携です。

厚生労働省指針でのメンタルヘルスケアの位置づけ

厚生労働省は、労働安全衛生法第70条の2に基づく「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年公示第3号、改正:平成27年11月30日公示第6号)において、事業者がメンタルヘルス対策に取り組む際の原則的な実施方法を示しています。実務上は、この指針に沿って「心の健康づくり計画」を作り、衛生委員会等で十分な調査審議を行いながら運用することが基本線になります。

指針は、メンタルヘルス対策を「4つのケア」を用いて推進し、

  • 職場環境等の改善(一次予防)
  • メンタルヘルス不調への対応(二次予防)
  • 職場復帰のための支援(三次予防)
  • が円滑に行われるようにする必要があるとしています。EAPは、このうち特に事業場外資源によるケアとして、社内では確保しにくい中立性・専門性・相談チャネルを補完する位置づけです。

さらに指針では、事業場内の推進体制として、産業医等の助言・指導を得ながら実務を担う事業場内メンタルヘルス推進担当者を、事業場内産業保健スタッフ等の中から選任するよう努めること、選任対象としては衛生管理者等や常勤の保健師等が望ましいことが示されています。また、メンタルヘルスの個人情報を取り扱うため、労働者について人事権を有する者を選任することは適当ではない点も明確にされています。

4つのケアとEAPの関係

4つのケアの全体像と各主体の役割

厚生労働省の指針が示す「4つのケア」は、実施主体ごとの役割分担を前提に、一次~三次予防を途切れさせないための基本フレームです。特に、教育研修・情報提供を通じて、各主体が自分の役割で動ける状態(相談先・手順・守秘の考え方が共有されている状態)を作ることが求められます。

指針が示す4つのケア(実施主体の整理)
  • セルフケアは、労働者自身がストレスへの気づきと対処を行う取り組みです。
  • ラインによるケアは、管理監督者が部下の変化を把握し、職場環境の調整や相談対応を行う取り組みです。
  • 事業場内産業保健スタッフ等によるケアは、産業医・保健師・衛生管理者等が専門的立場から助言・指導し、体制を整える取り組みです。
  • 事業場外資源によるケアは、社外の専門機関から情報提供・助言を受け、ネットワーク形成や復職支援も含めて活用する取り組みです。

また、指針の整理に沿って社内役割を具体化すると、次のように分担を言語化できます。

産業保健スタッフ等の職務(指針の整理)
  • 産業医等は、対策実施状況の把握、助言・指導、ストレスチェック制度と長時間労働者面接指導、健康情報保護で中心的役割を担います。
  • 衛生管理者等は、教育研修の企画・実施や相談体制づくりを担います。
  • 保健師等は、労働者・管理監督者からの相談対応等を担います。
  • 心の健康づくり専門スタッフは、教育研修の企画・実施や相談対応等を担います。
  • 人事労務管理スタッフは、労働時間等の労働条件の改善や適正配置への配慮を担います。
  • 事業場内メンタルヘルス推進担当者は、産業医等の助言を得て推進実務を担い、人事権を有する者は選任しないのが適当とされます。

EAPが担う事業場外資源と連携の役割

EAPは「事業場外資源によるケア」の中核になり得ます。社外の専門機関を使う意義は、従業員にとっての心理的安全性(社内の利害からの距離)を確保しつつ、社内だけでは揃えにくい専門性(心理・法律・生活課題等)をつなげられる点にあります。

また、指針上も事業場外資源は、情報提供や助言の活用、ネットワークの形成、職場復帰における支援といった役割が想定されています。したがってEAPは、個別支援(パーソナル)と、匿名化した傾向把握・研修提案等(マス)を橋渡しする「連携装置」として設計すると機能しやすくなります。

事業場外資源としてEAPに期待する連携機能
  • 従業員が早期に相談できる社外窓口(電話・面談・オンライン等)を提供します。
  • 個人が特定されない範囲で、相談カテゴリや傾向の情報提供・助言を行い職場改善に接続します。
  • 必要に応じて、復職時の仕事内容や労働条件の設定等について助言・提案します(標準的支援期間3カ月の枠組みを前提に設計します)。
  • 社内の産業医・保健師・人事労務・管理職が動けるよう、導線(同意取得・紹介・記録管理)を整理します。

管理職・人事・産業医のどこまでをEAPに委ねるかを切り分ける判断基準

切り分けの軸は、(1)会社としての人事労務上の意思決定(業務命令・配置・評価等)を伴うか、(2)医学的判断(就業可否・就業制限等)が必要か、の2点です。EAPは有効な外部資源ですが、会社の権限行使や産業医の専門判断を代替するものではありません。

加えて、厚生労働省指針は、メンタルヘルスに関する個人情報を扱うことから、推進担当者について人事権を有する者の選任は適当でないとしています。EAP運用でも同様に、相談の秘匿性を確保しつつ社内が適切に動くため、情報の受け手・権限・同意手順を「線引き」として文書化することが重要です。

区分 主担当 理由(実務上の要点)
日常のストレス相談、家族・介護等の生活課題の整理 EAP 早期相談・中立性・専門性を活かし一次~二次予防に寄与します。
ハラスメント等の相談の初期受け、心理的負担の整理 EAP+社内窓口 外部で受けることで安心感が出る一方、社内手続(調査・措置)への接続が必要です。
配置転換、業務量調整、労働条件変更の決定と実施 管理職・人事 人事労務上の決定権限と実行責任は会社側に残ります。
就業判定、就業制限の要否判断 産業医等 医学的見地に基づく判断であり、指針上も産業医等の中心的役割です。
復職時の仕事内容・労働条件設定への助言 EAP(助言)+人事・産業医(決定) EAPは助言・提案、社内は最終決定と運用責任を担います(EAPの標準的支援期間3カ月の設計が参考になります)。
EAPに委ねやすい業務/社内で担うべき業務の目安
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EAP導入の目的と効果

離職防止と生産性低下の予防につながる理由

EAPが離職防止・生産性低下の予防に資するのは、一次予防(未然防止)と二次予防(早期対応)を「相談行動が起きる形」で補強できるためです。特に、従業員が不調を申告しないまま悪化するリスクを前提に、会社としては変化の兆候を放置しない体制が求められます。

在宅勤務(テレワーク)では、対面の機会が減ることで変化に気づきにくい点がネックになるとされ、WEB会議等の活用とともに、労働者の声をキャッチできる健康相談体制の整備が必要とされています。EAPを、対面に依存しない相談チャネルとして組み込むと、テレワーク下の早期把握に寄与します。

離職・生産性低下リスクに対するEAPの効き方(実務の観点)
  • 匿名性・中立性のある窓口があることで、申告前段階の相談を受け止めやすくなります。
  • テレワークで見えにくい変化を、相談データ(個人が特定されない形)から兆候として把握しやすくなります。
  • 3カ月の標準的支援期間で課題整理と行動計画を回し、長期化・重症化の前に医療や社内支援へ接続しやすくなります。

労務リスクと職場対応の負担を減らす効果

EAPは、社内だけで抱え込んだ結果として起こり得る対応ミス(不適切な面談、情報管理不備、相談放置)を減らし、労務リスクと現場負荷を下げます。特に、社外からの著しい迷惑行為(顧客・取引先・施設利用者等)による心理的負担は、実務上見落とされやすく、放置すると深刻化し得ます。

厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和5年9月1日 基発0901第2号)では、具体的出来事として「27 顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」が挙げられており、その程度が「強」と認められる場合は、業務上と認定される可能性があるとされています。したがって、社外からの嫌がらせ・迷惑行為が疑われる場面は、EAPで早期に相談を受け、事実整理と社内導線(安全配慮、ハラスメント、警察相談等を含む)へ適切につなぐことが、紛争化や労災・休職リスクの抑制に直結します。

社外からの迷惑行為リスクに対してEAPで整える論点
  • 「顧客・取引先・施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた(出来事27)」に該当し得る事実を、時系列・頻度・内容で整理します。
  • 従業員の心理的負担の受け止め(傾聴)と、社内の安全衛生・人事労務・法務への適切な接続を行います。
  • 個人情報の秘匿を守りつつ、必要最小限の情報で現場の安全確保策(対応窓口一本化等)を検討できる形に加工します。

相談件数が増えても成果とは限らない――利用率・休職率・復職率をどう読み分けるか

評価は「相談件数が増えたか」だけで判断せず、利用率(アクセスのされ方)と、二次・三次予防の帰結としての指標を組み合わせて読み分けます。周知直後に相談が増えるのは、制度への信頼が形成され「未然段階の相談」が顕在化した可能性もあるためです。

他方で、EAPには「標準的な支援期間は3カ月」とされる整理があるため、KPIを置くなら、この支援サイクルで何が改善したか(相談→課題整理→受診勧奨→就業配慮提案→フォロー)を追える設計が実務的です。

指標の読み分け(3カ月支援サイクルを前提にする例)
  • 利用率は、周知・心理的安全性・相談導線が機能しているかを確認する入口指標です。
  • 休職率(新規・長期)やメンタル不調の事後対応件数は、二次予防の成否を確認する帰結指標です。
  • 復職後の定着状況は、三次予防(職場復帰支援)の質を確認する指標であり、復職支援の助言・提案が活きているかを見ます。

EAPと法令対応の整理

ストレスチェックとEAPをどう組み合わせるか

ストレスチェックは、労働安全衛生法第66条の10により、事業主が従業員に対して医師等による心理的負担の程度を把握する検査を行う制度です。実施頻度は、常時使用する労働者に対し一年以内ごとに一回とされます。厚生労働省は実務上の調査票として「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」の利用を推奨しています。

検査項目は、

  • 心理的負担の原因に関する項目
  • 心身の自覚症状に関する項目
  • 周囲の支援に関する項目
  • の3領域で構成され、実施者(医師等)が結果を本人へ通知します(労働安全衛生法第66条の10)。そのうえで、検査結果から医師が「面接指導が必要」と認めた労働者が希望した場合、事業主は医師による面接指導を行う必要があります(労働安全衛生法第66条の10)。

EAPは、ストレスチェックの「測定・通知・面接指導」という枠外で、日常の相談行動を受け止め、必要に応じて産業医面談や医療受診、職場環境改善へつなぐ補完線として組み込むと効果的です。

ストレスチェックとEAPの実務的な接続点
  • 個人結果通知のタイミングで、社外相談窓口(EAP)の利用方法を併記し、未然段階の相談につなげます。
  • 面接指導が必要な可能性がある従業員が社内面談をためらう場合、EAPで不安を整理し、本人の意思決定を支援します(最終的な面接指導の枠組みは法令に従います)。
  • 集団分析と、EAPの匿名化された相談傾向を並べ、一次予防としての職場改善・管理職研修のテーマ設定に落とし込みます。

産業医選任義務と産業保健スタッフの役割分担

産業医の選任義務は、常時50人以上の労働者を使用する事業場で問題になります(選任義務自体は法令に基づく整理です)。指針上も、産業医・衛生管理者・衛生推進者等に健康管理に関する職務を適切に行わせること、また50人未満の産業医を選任する義務のない事業場は地域産業保健センターの産業保健サービスを活用することが示されています。

社内の産業保健スタッフ等には、ストレスチェック制度や長時間労働者への面接指導、個人健康情報保護など、法令・指針の中心線に位置する業務が集まります。一方、日常の相談をすべて社内で抱えると稼働にも限界があるため、EAPで補完する分担が実務的です。

役割分担の基本(指針の職務整理に沿った考え方)
  • 産業医等は、助言・指導、面接指導、ストレスチェック、健康情報保護の中核を担います。
  • 衛生管理者等は、教育研修の企画・実施や相談体制づくりを担います。
  • 人事労務管理スタッフは、労働時間等の改善や適正配置の実行を担います。
  • EAPは、社外の相談・助言とネットワーク形成、復職支援の助言・提案で社内体制を補完します。

同意なく共有できる情報とできない情報の線引き――相談記録・受診勧奨・職場配慮の扱い

メンタルヘルスに関する健康情報を扱う際は、個人情報保護法および関連指針等の遵守が前提です。厚生労働省の指針でも、健康情報を含む労働者の個人情報の保護に配慮することが極めて重要とされ、利用目的の公表・通知、目的外取扱いの制限、安全管理措置、第三者提供の制限などが求められています。

ストレスチェック制度に関しては、制度上も秘密保持の要請が強く、ストレスチェック実施事務に「人事権を有する者」が従事してはならない旨が示されています。EAPと社内の情報連携も同様に、本人同意を軸に「共有の最小化」を徹底する必要があります。

また、主治医等から会社へ情報提供を依頼する場合でも、求める事項は必要最小限に限定し、たとえば次のような項目に整理して取り扱うのが実務上の基本です。

会社が情報提供を求め得る事項(必要最小限の整理)
  • 病名です。
  • 治療経過です。
  • 現在の状態(業務に影響を与える症状や薬の副作用の可能性を含む)です。
  • 就業上の配慮に関する意見(再燃・再発防止のための注意事項等)です。
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内部EAPと外部EAPの選び方

内部EAPと外部EAPの違いを体制で比べる

内部EAP(社内運営)と外部EAP(外部委託)の違いは、相談窓口の所在と、従業員が感じる中立性・秘匿性、そして社内施策への接続スピードに表れます。指針は、一定規模以上の事業場では「心の健康づくり専門スタッフや保健師等を確保し、活用することが望ましい」としており、内部資源を厚くできる企業では内部EAPにより運用の一体性を取りやすい面があります。

一方で、メンタルヘルスの個人情報を扱う点から、推進担当者の選任においても「人事権を有する者は適当でない」とされるなど、社内運用では情報統制設計がより難しくなります。外部EAPはこの点で、従業員の心理的安全性を確保しやすく、標準的に3カ月の支援枠や定期報告、復職時の助言・提案といった運用をパッケージとして設計しやすい特徴があります。

観点 内部EAP 外部EAP
中立性・秘匿性の受け止め 社内に伝わる不安が出やすく、規程と運用監査が重要です。 社外窓口として心理的安全性を確保しやすいです。
社内事情の理解と職場調整 就業規則・配置・職場実態を踏まえた調整が速いです。 社内接続は導線設計(同意・紹介・報告範囲)が鍵です。
支援設計の標準化 社内事情に合わせて柔軟に作れます。 標準的支援期間3カ月、定期報告、復職助言などの枠組みを組み込みやすいです。
内部EAP/外部EAPの体制比較(実務上の観点)

専門機関や相談窓口の選定基準を整理する

外部委託先の選定は、「相談の質」「相談の到達性(チャネル)」「情報管理と報告の設計」で判断します。厚生労働省の指針が、教育研修・情報提供を通じて4つのケアを適切に実施すること、事業場外資源の活用・ネットワーク形成を進めることを求めているため、単なる相談窓口に留まらず、組織改善につながるフィードバック設計が重要です。

外部EAPベンダー選定のチェック観点
  • 有資格者(公認心理師等)が対応し、必要に応じて弁護士等の外部専門家へ連携できる体制があることです。
  • 電話・面談・オンライン等、従業員が使いやすい複数の相談手段が用意されていることです。
  • 標準的支援期間3カ月の範囲で、課題整理から必要機関連携までを設計できることです。
  • 事業場へは定期的に状況報告を行う一方、個人が特定されない統計・傾向として還元できることです。

50人未満・50人以上・複数拠点企業で選び方が変わる理由

規模・拠点形態によって選び方が変わるのは、法令対応の要件と、社内資源の厚み、秘匿性へのニーズが異なるためです。特に産業医体制とストレスチェックの実施体制は、常時50人以上かどうかで実務負荷が変わります。

規模・拠点別の選び方の要点
  • 50人以上の事業場は産業医選任義務が実務上問題となるため、産業医等と連携し、ストレスチェックや面接指導の導線も含めて設計できる体制が重要です。
  • 50人未満の事業場は地域産業保健センターの産業保健サービス活用が指針で示されており、社内資源の不足を外部資源で補う設計が現実的です。
  • 複数拠点は、事業場外資源の「ネットワーク形成」の観点から、どの拠点でも同水準で相談できる窓口・提携網が重要です。

EAP導入と運用の進め方

導入前に定める目的と対象範囲と守秘方針

導入前に「目的」「対象範囲」「守秘方針」を文書化し、相談の心理的安全性と社内の実行力を両立させることが重要です。特に指針が示すとおり、メンタルヘルスの個人情報は慎重な取扱いが必要であり、推進担当者の選任でも人事権を有する者は適当でないとされています。EAPでも、相談内容が人事評価や配置に直接流用されないことを、制度設計として担保する必要があります。

また、有料EAPサービスの運用イメージとして「標準的な支援期間は3カ月」「事業場への定期的状況報告」「復職時の仕事内容・労働条件設定への助言・提案」が示されているため、契約・規程・同意書式もこの運用に耐える形で整備します。

導入前に決めるべきルール(最低限)
  • 目的は、一次~三次予防のどこを強化するか(例:早期相談の促進、復職支援の強化)まで落として定義します。
  • 対象範囲は、正社員だけでなく非正規・派遣等まで含めるかを就業実態に合わせて決めます。
  • 守秘方針は、本人同意のない個別相談記録の共有をしないこと、共有するとしても必要最小限に加工することを明記します。
  • 推進担当・情報取扱担当は、人事権者を避けた体制(指針の考え方)で権限設計します。

導入手順と厚労省資料の活用方法

導入は、指針が求める「衛生委員会等における調査審議」と「心の健康づくり計画」に接続して進めると、社内合意と運用の一貫性を確保しやすくなります。とくに個人情報保護(利用目的、目的外利用の制限、安全管理措置、第三者提供制限等)を前提に、健康情報の取り扱いルールを整備したうえで周知することが、利用率とリスク管理の両面で要になります。

指針に沿った導入の進め方(実務手順)
  1. 衛生委員会等で現状(不調・休職の傾向、職場課題)を調査審議し、導入目的を確定します。
  2. 心の健康づくり計画にEAP活用(事業場外資源)を位置づけ、4つのケアの役割分担を明確化します。
  3. 健康情報の取扱いについて、利用目的の通知、公表、目的外利用制限、安全管理措置、第三者提供制限を前提に社内ルールを策定します。
  4. ベンダー選定では、標準的支援期間3カ月、定期報告、復職助言・提案、匿名統計のフィードバック可否を要件化します。
  5. 教育研修・情報提供として、労働者・管理監督者に「相談導線」「守秘」「社内対応の境界」を周知し、運用を開始します。

利用率向上と職場復帰支援の運用設計

利用率を上げるには「思い出せる・使いやすい・安心できる」設計が必要で、復職支援は「同意に基づく情報連携」と「役割分担」によって再休職を防ぐ設計が要です。とくにテレワーク環境では変化に気づきにくいため、日常的にアクセスできる健康相談体制としてEAPを組み込む意義が高まります。

EAPの運用枠として示される「標準的支援期間3カ月」を踏まえると、復職支援はこの期間内で「課題整理→社内調整→復職後フォロー」まで回せるプロトコルにしておくと運用しやすくなります。

利用率向上のための設計要素
  • 深刻な不調だけでなく、介護・家族関係・職場の対人関係など幅広い相談テーマを周知します。
  • テレワーク下でも使えるチャネル(電話・オンライン等)を整備し、WEB会議等と併用して変化の把握を補います。
  • 守秘(本人同意のない個別情報共有をしない)を明確にし、安心して使える条件を整えます。
復職支援の運用設計(3カ月支援枠を意識した連携)
  • 主治医からの情報提供は必要最小限(病名、治療経過、現在の状態、就業上の配慮意見)に整理し、本人同意のもとで取り扱います。
  • 産業医等が医学的見地から就業上の判断を行い、人事・現場が配慮措置を実行します。
  • EAPは復職時の仕事内容や労働条件設定への助言・提案を行い、定期的状況報告の枠組みで定着フォローを設計します。

よくある質問

従業員支援プログラム(EAP)は義務ですか?

EAP自体を導入することは、現行法上の直接の義務ではありません。一方で、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(労働安全衛生法第70条の2)は、事業者が衛生委員会等で調査審議を行い「心の健康づくり計画」を策定し、「4つのケア」を効果的に推進するという実施方法を示しています。EAPは、この枠組みにおける事業場外資源として位置づけられ、一次~三次予防を円滑にするための実務的な手段になります。

また、ストレスチェックは、常時使用する労働者に対して1年以内ごとに1回の実施が制度として定められており(労働安全衛生法第66条の10)、法令対応と実効性をつなぐ補完線としてEAPを設計することは合理的です。

50人未満の事業場でもEAPを導入する意味はありますか?

50人未満の事業場でも、EAP導入の意義はあります。厚生労働省の指針上も、50人未満で産業医を選任する義務のない事業場は地域産業保健センターの産業保健サービスを活用するという整理が示されており、社内資源の不足を外部資源で補う発想が前提にあります。

また、小規模ほど相談の秘匿性が課題になりやすいため、事業場外資源としてのEAP(社外窓口)を整えることは、早期相談を促し、重症化・休職・離職のリスク低減に寄与します。

ストレスチェック結果をEAPと共有できますか?

ストレスチェックは労働安全衛生法第66条の10に基づく制度で、実施者は医師等であり、検査結果は本人へ通知されます(労働安全衛生法第66条の10)。この制度は健康情報の取扱いに厳格な配慮が求められ、指針上も個人情報保護と秘密保持が強調されています。

そのため、ストレスチェックの個人結果をEAPに提供して個別フォローに使う場合は、本人の同意を前提に、提供範囲・利用目的・第三者提供の扱いを明確にして運用する必要があります。一方で、個人が特定されない形に加工した集団分析データは、一次予防(職場環境改善)の材料として外部資源の助言を得る設計に活用しやすい領域です。

中小企業が使える公的な相談先はありますか?

公的な相談先としては、たとえば厚生労働省が支援する「こころの耳」(働く人のメンタルヘルスポータルサイト)が挙げられます。また、厚生労働省のパワハラ対策のサイト「明るい職場応援団」には相談機関が紹介されており、労働局の総合労働相談、法務省の「みんなの人権110番」等が整理されています。

さらに、メンタルヘルス対策の支援として「メンタルヘルス対策支援センター」では、総合的な相談対応、個別事業場への訪問支援、関係機関とのネットワーク形成等により、予防から早期発見・職場復帰支援までを総合的に支援するとされています(同センターは医療機関・カウンセリング機関ではないため診療やカウンセリングは行わない、という点も留意が必要です)。加えて、地域産業保健センターの産業保健サービス活用は、50人未満の事業場向けの現実的な選択肢として指針上も示されています。

従業員支援プログラム(EAP)への対応で次にすべきこと

EAPは、厚生労働省指針の「4つのケア」のうち事業場外資源として、一次~三次予防をつなぐ役割を担う一方、会社の人事労務上の意思決定や産業医等の医学的判断を代替するものではありません。設計では、標準的な支援期間が3カ月とされる運用整理を踏まえ、個別支援(相談・助言)と、匿名化した傾向把握(職場改善への還元)をどう組み合わせるかを判断軸にします。次のアクションとしては、衛生委員会等での調査審議と心の健康づくり計画への位置づけを確認し、同意に基づく情報共有の範囲、受け手、記録管理のルールを文書化することが実務の起点になります。運用開始後は、利用率・休職率・復職後の定着状況などを同じ土俵で読み分け、相談件数の増減だけで評価しない視点が必要です。個別のケース判断や紛争化のおそれがある場面では、産業医等や人事労務・法務の専門家に相談しながら、事実整理と導線設計を進めてください。



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