法務

うつ退職勧告の進め方|違法を避ける条件と面談手順を確認

経営リスクナビ編集部

うつ病・適応障害など精神疾患の従業員に退職勧奨を検討する場面では、長期欠勤や復職見通しの不透明さから「退職してもらうべきか」を判断せざるを得ないことがあります。対応を急ぐと、退職強要・不当解雇の争いに加え、面談が引き金となった病状悪化について少なくとも30万円の損害が認められた例のように、安全配慮義務違反の評価まで波及し得ます。法的に許容される条件と、記録・手続をどこまで整えればよいかが見えれば、退職勧奨に進むのか、休職・復職プロセスを優先するのかの選択がしやすくなります。実務で最初に押さえるべきは退職勧奨の位置づけです。境界線と前提確認から見ていきます。

目次

退職勧奨の位置づけ

退職勧奨と解雇の違い

退職勧奨は、労働契約を終了させるにあたり労使の合意(合意退職)を目指す話し合いであり、使用者の一方的意思表示で雇用を終了させる解雇とは法的性質が異なります。退職勧奨は「お願い」にとどまるため、従業員は理由を問わず拒否できます。合意が成立した場合は、後日の争いを抑えやすい合意退職として整理できます。

一方、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は権利濫用として無効となります(労働契約法第16条)。また普通解雇を行う場合、手続面として30日前までの解雇予告または30日分の解雇予告手当が必要です(労働基準法第20条)。解雇が無効と判断されると、会社は解雇日以降の賃金相当額等の支払義務を負い得るため、実務ではまず退職勧奨で合意形成の余地を検討し、並行して就業規則(解雇事由・休職・自然退職)の整合性と証拠の精査を行う運用が安全です。

退職強要と無効の境界

退職勧奨が社会的相当性を超えて強迫的になれば、退職強要として違法評価され、合意が取り消し・無効とされるリスクが高まります。境界線は、従業員が自発的に意思決定できる自由(心理的自由)が確保されていたかです。

退職強要と評価されやすい言動
  • 拒否の意思を示した後も面談を繰り返し求めて追い込む行為
  • 密室での長時間拘束や多数人で囲むなど、逃げ場を失わせる進め方
  • 「応じなければ懲戒解雇」など不利益を誇張して告知し署名を迫る言動
  • うつ病等で判断力が落ちている局面で即日回答やその場の署名捺印を求める運用

特に精神疾患の局面では、面談それ自体が病状悪化を招き得るため、会社は安全配慮義務違反の評価も意識する必要があります。実際に、面談により病状が悪化し、復職が遅れた期間の損害として少なくとも30万円が相当因果関係ある損害とされた裁判例もあります(面談後に復職時期が2009年1月想定から同年4月27日にずれ、給与減額合計42万4,575円のうち一部が損害と判断)。したがって、退職勧奨は「拒否できる」「熟慮できる」環境を制度として担保し、本人の心身状態に応じて実施可否・方法を調整することが不可欠です。

うつ退職勧告の前提確認

発症の業務起因性を確かめる

うつ病・適応障害等の従業員に退職の話を持ち出す前に、発症が業務起因(労災)となり得るかを先に点検します。業務上の負傷・疾病として療養中およびその後30日間は解雇が制限されます(労働基準法第19条)。この局面で退職勧奨を行うと、形式は合意でも実質的な圧力と評価されやすく、紛争化した際の防御が難しくなります。

業務起因性の判断は、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日基発1226第1号、最終改正:令和2年8月21日基発0821第4号、さらに令和5年9月1日基発0901第2号にも言及あり)を踏まえ、発症前おおむね6か月の間に「業務による強い心理的負荷」が認められるか等が整理されます。対象はICD-10第V章「精神および行動の障害」に分類される精神障害(代表例としてうつ病、急性ストレス反応など)です。また、精神障害が業務起因で発症し自殺に至った場合、精神障害により正常な認識・行為選択能力等が著しく阻害された状態に陥ったものと推定され、原則として死亡も労災認定するとされています。

実務で先に確認する記録(発症前おおむね6か月を中心)
  • 時間外労働や勤務実態が分かる客観記録(タイムカード、PCログ等)
  • 直近の人事異動・配置転換・業務量変更などの業務上の出来事
  • ハラスメントの申告・相談記録、メール・チャット等の一次資料
  • 医師の診断書の記載内容と発症時期の整合性

就業規則と休職制度を点検する

休職制度は法律で当然に付与される制度ではなく、企業が就業規則で設計する「解雇の猶予措置」として運用されます。そのため、退職勧奨を検討する前提として、就業規則上の休職・復職・自然退職の規定が整備され、運用が一貫していることが重要です。

就業規則で点検するポイント
  • 休職命令の発動要件(欠勤継続や労務不能の程度など)が明確か
  • 休職期間の上限や延長の可否、手続(申請・診断書提出・会社判断)が定義されているか
  • 休職満了時に復職できない場合の整理(自然退職・解雇の別と要件)が明記されているか
  • 復職審査のプロセス(主治医情報の精査、産業医等の関与、試し出勤等)の手順が定められているか

また、退職後に「退職金を請求する」争点が生じた場合、退職金規程等に基づく立証が必要になります。実務では、就業規則・退職金規程の写し、過去の退職金明細書等が立証資料となり得ることが裁判例上も整理されています(例:東京高決平19.10.9、東京高決平21.11.16)。退職勧奨の局面では、退職金の扱いを含め、社内規程に沿った説明と資料保全が重要です。

業務起因性が未確定な段階で、労災前提の扱いに寄せるか私傷病対応を進めるかの判断基準

業務起因性が未確定でも、後日労災認定されると前提が崩れます。そこで初動では、認定基準が想定する枠組みに沿い、発症前おおむね6か月の「業務による心理的負荷」の有無を中心に、暫定的な扱いを切り分けます。

暫定的に労災前提に寄せて慎重運用を検討しやすい事情
  • 認定基準が示す「発症前おおむね6か月」に強い心理的負荷となり得る業務事実がある
  • 長時間労働の目安として、発病直前1か月におおむね160時間以上の時間外労働、または直前3週間におおむね120時間以上の時間外労働が確認できる
  • ハラスメント申告や強い叱責等の具体的事実が記録として残っている
私傷病対応をベースに進めやすい事情(ただし記録で裏付ける)
  • 業務上の強い心理的負荷を示す具体的記録が乏しく、私生活上の要因が明確に示されている
  • 勤務実績・評価・業務トラブルの記録上、業務負荷の急変が見当たらない

なお、業務上か否かが確定しない疾病では、労災保険の支給決定を待ってから健康保険の給付請求をすると時効で不利益が出る可能性があることが指摘されています。このため、従業員側の手続としては労災請求と同時に健康保険の傷病手当金請求を検討する実務もあり、裁判所も「労災給付を請求しつつ健康保険給付を請求することは法令上妨げられない」と判断しています(東京地裁平成17年6月24日判決)。会社としては、従業員の生活保障に関わる説明・案内の場面で、制度誤解が紛争原因にならないよう注意します。

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休職と復職の判断軸

復職可否は診断書だけで決めない

主治医の「復職可」診断書が提出されても、それだけで復職を即決するのは危険です。主治医の判断は日常生活能力を前提にしやすく、会社が求める当該職務の業務遂行能力(集中力、対人対応、所定労働時間の耐久性等)と一致しないことがあるためです。

厚生労働省の職場復帰支援の整理でも、〈第2ステップ〉として、休業中の労働者の復職意思表示・診断書提出に際し、会社側が職場で必要な業務遂行能力に関する情報を主治医に提供し、提出された診断書の意見(就業上の配慮に関する具体的意見を含む)を産業医等が精査する流れが示されています。会社は安全配慮義務の観点からも、主治医所見の内容を具体化し、職務要件とのギャップを確認したうえで総合判断します。

診断書に加えて確認したい就労能力の観点(例)
  • 所定就業時間の勤務を継続できる体力・集中力があるか
  • 通勤負荷に耐えられるか(睡眠覚醒リズム、混雑耐性等)
  • 再発リスクが高いことを前提に、就労上必要な措置(作業時間・作業方法等)が具体化できるか

休職満了退職との関係を整理する

就業規則に休職満了時の取り扱い(自然退職等)が定められている場合でも、運用が不適切だと実質的解雇と評価され、労働契約法第16条の枠組みで争われ得ます。特に、復職申出と診断書提出があるのに、会社が復職審査(産業医等の精査、職務要件との照合、配慮措置検討)を尽くさずに機械的に自然退職として処理すると、合理的プロセスを欠くと評価されやすくなります。

休職満了が近い局面で会社が最低限行うべき管理
  • 休職満了日と必要書類の提出期限を文書で通知し、本人に到達記録を残す
  • 主治医所見を具体化するため、職務内容情報の提供と医療照会の同意取得を検討する
  • 産業医等の意見を踏まえ、配置転換・業務軽減など復職可能性を最後まで検討した記録を残す

主治医は復職可・現場は困難という食い違いが出たとき、会社が追加で確認すべき資料と順番

主治医の診断と現場の評価が食い違う場合は、主観論に流れないよう、段階的に資料を積み上げます。

食い違いが出たときの確認順序(証拠化を意識)
  1. 生活リズム等を示す記録(生活記録表など)を提出してもらい、一定期間の安定性を確認します。
  2. 本人の同意書を得て、主治医に対し職務要件情報を提供したうえで質問状を送付し、診療情報提供書等で就労能力の根拠を確認します。
  3. なお重大な疑義が残る場合は、会社指定医の意見(セカンドオピニオン)取得を検討し、就業規則上の受診命令の根拠と運用の相当性を整理します。

この順序により、復職可否を「診断名」ではなく「業務遂行能力」に結び付けて説明しやすくなり、後日の争点整理(安全配慮義務・解雇回避努力・手続の公正)にも資する記録が残ります。

うつ退職勧告の手続

事前準備で集める事実と記録

退職勧奨を検討する前に、会社は「病名」ではなく、職務支障の事実と、会社が講じた配慮・回避努力の経緯を記録で固めます。これは、後に退職強要・不当解雇類似の評価や、安全配慮義務違反の主張を受けたときに、会社側が「合理的プロセスを踏んだ」ことを立証するためです。

事前に揃える記録(例)
  • 出退勤データ(欠勤・遅刻・早退の推移が分かるもの)
  • 業務指示と結果の記録(遅滞、ミス、引継ぎ不能等の具体的事実)
  • 配慮措置の実施履歴(業務量調整、配置転換の検討、残業免除等)
  • 本人からの申出・相談、会社の回答、面談日時と議事メモ

あわせて、退職金等の金銭条件が交渉に上がることを想定し、就業規則・退職金規程の該当条項、算定に必要な勤続年数等の基礎情報を整理します。過剰な退職金等の支払い要求が出た場合でも、他の従業員との均衡・社内規程・説明可能性を確保し、安易に「過剰に上乗せ」しない運用が重要です。

産業医意見を踏まえ面談を設計する

面談は、従業員の心身負担を抑え、自由意思を確保した手続として設計します。特に精神疾患では、面談が症状悪化を招く可能性があり、安全配慮義務違反の成否にも直結します。

面談設計で押さえる実務ポイント
  • 面談実施の可否や適切な方法について、産業医等の意見を書面で得ておく
  • 主治医に提供すべき「職場で必要な業務遂行能力」の情報を整理し、照会の同意取得を準備する
  • 参加者を必要最小限にし、圧迫感を生む配置・言動(叱責、即答強要)を避ける

なお、面談が引き金となって病状が悪化し復職が遅れ、損害賠償が認められた事例があることからも、会社側は「面談の内容・態様」自体が争点化する前提で、言動の記録化と慎重運用を徹底します(病状悪化により休業損害のうち少なくとも30万円が損害とされた事例)。

面談後に即答を求めず、何日置いて再確認するかを決める社内運用の線引き

退職勧奨では、その場での署名捺印や即答を求めず、熟慮期間を制度として確保し、退職強要の評価を避けます。

熟慮期間の運用(社内ルール化の考え方)
  • 面談当日は結論を求めず、合意書案や条件説明は持ち帰り前提で渡す
  • 家族や弁護士等への相談を明確に促し、拒否できることも明言する
  • 再面談は本人の体調と希望を踏まえ、産業医等の意見も参照して設定する

特にうつ病等では、意思決定能力が揺れやすい場面があるため、合意の有効性を後日争われないよう、手続の公正(説明内容、熟慮の機会、相談機会、圧力の不存在)を記録で残すことが重要です。

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違法になる場面と裁判例

違法とされやすい勧奨の類型

退職勧奨が任意の話し合いの範囲を超えると、退職強要として不法行為(損害賠償)リスクが生じます。精神疾患の局面では、面談態様が安全配慮義務違反の評価にもつながり得ます。

判例上、違法評価されやすい類型(整理)
  • 拒絶後の執拗な継続型(拒否後も面談を反復し、応諾するまで続ける)
  • 拘束・威迫型(密室・多数人・長時間拘束などで心理的自由を奪う)
  • 脅迫・不利益告知型(懲戒解雇を示唆するなど不利益を誇張して署名を迫る)
  • ハラスメント併用型(嫌がらせ、仕事外し、自宅待機の濫用等とセットで追い込む)

上記のような運用は、合意の瑕疵(強迫・錯誤・意思無能力)主張の土台にもなります。面談の「回数・参加者・場所・時間・言動」を、後から検証可能な形で整えることが予防策になります。

有効無効を分けた裁判例の差

退職・自然退職・解雇いずれの局面でも、有効性の帰趨は「会社がどれだけ合理的な医学的プロセスと配慮検討を尽くし、記録化したか」に左右されます。厚生労働省の職場復帰支援の流れでも、主治医の判断に対し、産業医等が業務遂行能力の観点から精査する手順が想定されており、会社はこの枠組みに沿った運用を行うほど説明可能性が高まります。

有効と評価されやすい運用の共通項
  • 主治医診断書を鵜呑みにせず、職務要件情報を提供したうえで意見の具体化を図る
  • 産業医等による精査・面談を実施し、復職可否を業務遂行能力で評価する
  • 配置転換・業務軽減・試行的就労など解雇回避努力を検討し、その経緯を残す
無効と評価されやすい運用の共通項
  • 診断名や障害等級のみで判断し、職務支障の事実確認や配慮検討を省略する
  • 休職制度の利用可能性や手続を十分に説明せず、突発的に退職届を書かせる
  • 面談態様が不適切で、病状悪化の相当因果関係を指摘され得る

面談が原因で病状が悪化し損害が認められた例(少なくとも30万円が損害)もあるため、交渉結果だけでなく、交渉過程の相当性が勝敗を分けます。

病状ではなく職務支障の事実で説明できない会社が訴訟で崩れやすい理由

訴訟・労働審判の場面では、「うつ病だから辞めてもらう」という説明は通りません。裁判所が重視するのは、当該従業員が労働契約上予定された労務提供をできないという具体的事実と、会社が配置転換等を含めた回避努力を尽くしたかです。

立証の中心となる客観記録(例)
  • どの業務指示に対し、いつ、どのような遅滞・誤謬が生じたかを示す日報・指示書・メール
  • 欠勤・遅刻等の勤怠記録と、業務影響(引継ぎ不能、納期遅延等)の対応記録
  • 産業医等の意見(職務要件に照らした就業可否・配慮措置の必要性)

また、解雇を選択する場合は、解雇禁止事由に該当しないこと、就業規則の解雇事由に該当すること、労働契約法第16条の合理性・相当性、そして労働基準法第20条の解雇予告(30日前または手当)といった要件を満たす必要があります。これらを職務支障の事実と結びつけて説明できない場合、会社の主張は構造的に崩れやすくなります。

退職勧奨以外の選択肢

配置転換と業務量調整の可否

退職勧奨の前に、会社は配置転換・業務軽減などの解雇回避努力を検討しておく必要があります。これは、後に解雇や自然退職の有効性が争われる場合にも、社会通念上の相当性(労働契約法第16条)の判断要素となり得るためです。

実務で検討しやすい調整策(例)
  • 残業免除、業務量の段階的引き上げ、担当顧客数の削減
  • 対人折衝の少ない定型業務への一時的配置転換
  • 産業医等の意見を踏まえた作業時間・作業方法の見直し(復職時は再発可能性が高い前提で措置)

こうした検討・提示を経ずに「以前と同じ仕事ができない」だけで退職に誘導すると、手続の相当性を欠くと評価されやすくなります。

解雇と会社都合退職の判断

雇用終了が避けられない場合でも、実務上は、まず退職勧奨により合意退職を目指すほうが紛争リスクを抑えやすいです。解雇は、就業規則上の解雇事由に該当し、解雇禁止事由に当たらず、かつ労働契約法第16条の合理性・相当性を満たす必要があり、さらに労働基準法第20条により30日前の解雇予告または解雇予告手当が必要です。

一方で、退職勧奨の場面では、従業員が退職金等の金銭条件を要求することがあります。このとき、他の従業員より過剰に上乗せする合意を安易に行うと、社内均衡や説明可能性を失い、別の不利益・不公平問題を誘発します。過剰要求が強い場合には、その行為態様や就業規則上の位置付け次第で、解雇理由の一要素として検討され得る、という整理もあり得るため、条件交渉は記録化し、専門家と相談しながら慎重に進めるべきです。

失業給付への影響を確認する

離職理由の整理は、雇用保険の給付(給付制限の有無、所定給付日数等)に影響するため、会社は説明の前提として制度上の区分を誤らないことが重要です。離職理由欄についても、離職理由が所定給付日数・給付制限の有無に影響し得るため、正確に記載するよう注意喚起されています。

参照情報では、会社都合退職の場合、待機満了日から約1か月後に雇用保険(失業保険)が受給できる旨が示されています。また、通常は離職以前2年間に被保険者期間12か月以上が必要とされるところ、「特定受給資格者」に該当すれば、離職以前1年間に被保険者期間6か月以上で受給資格を得られる場合があるとされています(厚生労働省のウェブサイト参照との記載)。

このため、退職勧奨の説明では、離職理由の区分が従業員の生活に直結することを踏まえ、事実関係に沿った整理(合意退職の経緯、休職満了との関係、医師意見の状況等)を文書で残し、従業員にも必要に応じてハローワークで確認するよう案内するのが安全です。

よくある質問

うつ病の従業員に退職勧奨をするとき、最初の面談では何を伝えるべきですか?

最初の面談では、退職の承諾を迫るのではなく、①健康配慮、②制度の全体像、③今後の確認手順を伝えることに徹します。精神障害は業務起因性の判断に厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和5年9月1日基発0901第2号等)が用いられることがあり、発症前おおむね6か月の出来事・労働時間等が問題になり得るため、初回から「退職ありき」に見える進め方は避けるべきです。

初回面談で伝える内容(例)
  • 会社としてはまず療養と安全確保を優先し、体調を悪化させる進め方はしないこと
  • 就業規則上の休職制度・復職審査の流れがあること(必要書類、産業医等の関与、職務要件との照合)
  • 発症経緯や業務負荷の事実確認は、本人の心身負担に配慮しつつ記録に基づき行うこと

休職中の従業員に退職勧奨をする場合、どの時点までなら問題になりにくいですか?

休職中の退職勧奨は、療養初期に結論を迫るほど違法評価されやすく、休職制度を誠実に運用した形跡が乏しいとみられるリスクがあります。実務上は、復職可能性の確認(主治医意見の具体化、産業医等の精査、配慮措置の検討)を段階的に尽くしたうえで、休職期間の満了が視野に入った時点で、選択肢として話し合いを開始するほうが安全です。

厚生労働省の整理でも、主治医が職場復帰可能と判断する段階において、会社が職務要件情報を提供し、産業医等が日常生活能力と業務遂行能力の差を精査する流れが想定されています。したがって、少なくともこのプロセス(情報提供→診断書→産業医等の精査)を経ずに退職を促すと、手続の相当性を欠くと評価されやすくなります。

退職勧奨に同意した後で判断能力がなかったと主張された場合、何が争点になりますか?

争点は、①当時の意思決定能力の実態、②合意に至る手続の相当性、③退職条件の合理性です。精神障害が業務起因で発症し自殺に至った場合には、正常な認識・行為選択能力等が著しく阻害された状態に陥ったものと推定され、原則として労災認定されるという整理もあるため、精神機能の低下は強く問題になります(厚生労働省の認定基準)。

会社側が争点化に備えて残すべき記録(例)
  • 面談日時、参加者、場所、所要時間、説明内容、本人の発言要旨の議事メモ
  • 持ち帰り検討や相談機会を付与したこと(合意書案の交付日、再確認日程等)
  • 医師意見の位置付け(主治医への職務要件情報提供、産業医等の精査結果)

小規模企業で産業医がいない場合、復職や退職勧奨は誰の意見で判断すべきですか?

常時50人未満で産業医選任義務がない事業場でも、主治医診断書だけに依拠して判断すると、復職後の再発や、拙速な退職処理による紛争リスクが高まります。そのため、主治医意見に加えて、地域産業保健センター等の外部資源の活用や、必要に応じた会社指定医の意見取得を組み合わせ、職務要件との適合性を確認します。

参照情報でも、地域窓口(地域産業保健センター)を活用するなどして、面接指導または面接指導に準ずる必要な措置を講ずることができる旨が示されています。また、産業医は労働者に対し面接指導の申出をするよう勧奨できるとされています(安衛則52条の3第4項との記載)。小規模企業でも、これらの枠組みを参照しつつ、主治医に「職場で必要な業務遂行能力」の情報を提供し、診断書の記載を具体化してもらう運用が重要です。

うつ退職勧告への対応で次にすべきこと

うつ退職勧告(退職勧奨)を進めるかどうかは、まず退職勧奨が「合意」を前提とし、従業員が拒否できる手続である点を踏まえたうえで、退職強要と評価されない面談設計・記録化ができるかで判断します。次に、発症の業務起因性(発症前おおむね6か月の出来事・勤務実態など)と、就業規則上の休職・復職・自然退職の運用が整合しているかを点検し、復職可否は診断書だけでなく職務要件に照らして整理します。面談が原因で病状が悪化し少なくとも30万円の損害が認められた例もあるため、面談の回数・場所・参加者・言動を含め、後から検証できる形で整えることが実務上の防波堤になります。次のアクションとしては、産業医等の意見取得や、主治医への職務要件情報の提供・照会同意の取得、勤怠・業務支障・配慮措置の記録の棚卸しを行い、必要に応じて専門家へ相談して個別事情に即した進め方を確認してください。制度の当てはめは事案差が大きいため、最終判断は個別の事実関係に即して慎重に行うべきです。



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