法人の倒産手続 自己破産・特別清算・民事再生の違いと選択基準
会社の経営状況が悪化し、事業の将来について重大な決断を迫られている経営者の方もいらっしゃるでしょう。法的な整理手続きには、会社を清算する「法人破産」「特別清算」や、事業の再建を目指す「民事再生」など複数の選択肢があり、自社に最適な手続きを見極めるには各制度の違いを正確に理解することが不可欠です。この記事では、これら3つの代表的な法人向け倒産手続きについて、メリット・デメリットから手続きの流れ、費用までを網羅的に比較・解説します。
法人倒産手続きの全体像:清算型と再建型
会社の状況に応じた2つの方向性「清算型」と「再建型」
法人の倒産手続きは、会社の将来性や財産状況に応じて、「清算型」と「再建型」の2つに大別されます。
- 清算型: 事業の継続が困難で、経済的に破綻している場合に選択されます。会社の財産をすべて金銭に換価し、債権者に公平に分配した上で法人格を消滅させることを目的とします。代表的な手続きに「法人破産」や「特別清算」があります。
- 再建型: 債務超過など経営危機にありながらも、事業自体には収益性や将来性が見込まれる場合に選択されます。裁判所の監督下で債務の減免や支払猶予を受け、事業を継続しながら会社の立て直しを目指します。代表的な手続きに「民事再生」があります。
経営者は、自社の事業がもつ継続価値と、会社を畳んだ場合の清算価値を比較衡量し、どちらの手続きが適切かを慎重に判断する必要があります。
自己破産・特別清算・民事再生の法的な位置づけ
法人が利用する主な倒産手続きは、それぞれ根拠となる法律や特徴が異なります。
| 手続きの種類 | 根拠法 | 対象 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 法人破産 | 破産法 | すべての法人・個人 | 裁判所が選任する破産管財人が主導する厳格な清算手続き。原則として債権者の同意は不要。 |
| 特別清算 | 会社法 | 株式会社のみ | 会社が選任した清算人が主導する柔軟な清算手続き。債権者集会における多数決による同意が必須。 |
| 民事再生 | 民事再生法 | すべての法人・個人 | 原則として従来の経営陣が続投し、事業を継続しながら再建を目指す手続き。再生計画案に対する債権者集会における多数決による同意が必須。 |
【清算型】事業の清算を目的とする手続き
法人破産の手続き概要と流れ
法人破産は、裁判所の監督下で法人の全財産を清算し、法人格を消滅させる手続きです。一般的な手続きの流れは以下の通りです。
- 弁護士への相談と方針決定: 経営状況を分析し、破産手続きの選択を決定します。
- 受任通知の送付: 弁護士が全債権者に通知を送付し、取り立てを停止させます。(※密行型として申立て直前まで通知を控える場合もあります)
- 裁判所への申立て: 必要書類を揃え、取締役会の決議を経て、管轄の裁判所に破産を申し立てます。
- 破産手続開始決定: 裁判所が要件を審査し、開始を決定。同時に破産管財人を選任します。
- 財産の管理・換価: 破産管財人が法人の財産を管理・調査し、売却等を通じて現金化します。
- 債権者集会: 裁判所で集会が開かれ、破産管財人が財産状況や換価の進捗を報告します。
- 債権者への配当: 換価で得た金銭を、法律上の優先順位に従って各債権者に分配します。
- 破産手続終結: 配当が完了すると手続きは終結し、法務局で登記が閉鎖され、法人格が消滅します。
法人破産を選択するメリット・デメリット
法人破産には、債務から解放されるという大きなメリットがある一方、事業の全てを失うというデメリットも存在します。
- すべての負債の支払義務が法的に消滅する。
- 債権者からの督促や取り立てから解放される。
- 破産管財人が中立的な立場で手続きを進めるため、債権者対応の負担が軽減される。
- 債権者間の公平な配当が実現される。
- 従業員は国の未払賃金立替払制度を利用できる可能性がある。
- 会社が消滅し、築き上げてきた事業や資産、許認可の全てを失う。
- 従業員は全員解雇となる。
- 「倒産」の事実が公になり、企業の社会的信用が完全に失われる。
- 裁判所への予納金や弁護士費用など、高額なコストがかかる。
- 経営者が連帯保証人の場合、個人も自己破産を迫られるケースが多い。
特別清算の手続き概要と流れ
特別清算は、解散した株式会社が債務超過の疑いにある場合に利用される、会社法上の清算手続きです。
- 株主総会での解散決議: 特別決議により会社を解散し、清算人を選任します。
- 裁判所への申立て: 清算人が財産状況を調査し、債務超過の疑いがあれば、裁判所に特別清算開始を申し立てます。
- 特別清算開始命令: 裁判所が要件を審査し、手続きの開始を命令します。
- 協定案の作成: 清算人が債権者への弁済計画である協定案を作成します。
- 債権者集会での決議: 協定案を債権者集会で諮り、出席議決権者の過半数かつ議決権総額の3分の2以上の同意を得る必要があります。
- 協定の履行: 裁判所の認可を受けた協定に基づき、清算人が債権者へ弁済を行います。
- 特別清算終結: 弁済が完了すると手続きは終結し、登記が閉鎖され法人格が消滅します。
特別清算を選択するメリット・デメリット
特別清算は破産に比べて柔軟な手続きですが、利用には高いハードルが存在します。
- 破産管財人ではなく、会社が選任した清算人が手続きを主導できる。
- 「破産」という言葉を避けられ、対外的なイメージの悪化を抑制できる可能性がある。
- 破産に比べて裁判所予納金が低額で、手続きが迅速に進む傾向がある。
- 親会社や金融機関など、協力的な大口債権者がいる場合に円滑に進めやすい。
- 手続きを利用できるのは株式会社に限定される。
- 債権額で3分の2以上という、非常に高い割合の債権者の同意がなければ成立しない。
- 債権者の同意が得られない場合、手続きは破産に移行する。
- 破産手続きにおける否認権のような強力な権限がなく、過去の不透明な財産処分などがあると債権者の同意を得にくい。
【再建型】事業の継続を目的とする手続き
民事再生の手続き概要と流れ
民事再生は、事業を継続しながら経営再建を目指す手続きで、完全に経営破綻する前の段階でも申立てが可能です。
- 裁判所への申立て: 弁済禁止の保全処分を求め、管轄の地方裁判所に申し立てます。
- 監督委員の選任: 裁判所が中立な立場の弁護士を監督委員として選任し、経営を監視します。
- 再生手続開始決定: 申立てが認められると、本格的な再生手続きが開始されます。
- 債権届出と財産評定: 債権者は債権額を届け出て、会社側は財産を評価し、財産目録や貸借対照表を作成します。
- 再生計画案の作成・提出: 会社は債務の減免や分割弁済などを盛り込んだ再建計画案を作成し、裁判所に提出します。
- 債権者集会での決議: 再生計画案を債権者集会で諮り、出席議決権者の過半数かつ議決権総額の2分の1以上の賛成を得る必要があります。
- 再生計画の認可・履行: 裁判所の認可決定後、会社は計画に沿って数年かけて弁済を続けます。
- 再生手続の終結: 計画通り弁済が完了すると、手続きは終結します。
民事再生を選択するメリット・デメリット
民事再生は事業を守れる可能性がある一方、多くの困難も伴います。
- 会社を消滅させずに事業を継続できる。
- 原則として現経営陣が留任し、経営の主導権を維持できる。
- 再生計画の認可により、債務を大幅に圧縮できる。
- スポンサーからの資金援助や経営支援を受けられる可能性がある。
- 法的整理であるため、社会的な信用は大きく低下し、取引に支障が出ることがある。
- 事業に必要な資産の担保権(別除権)を持つ債権者には、個別に対応する必要がある。
- 裁判所への予納金や弁護士費用が非常に高額になる。
- 再生計画が否決されたり、履行できなかったりした場合は破産手続きに移行するリスクがある。
- 債務免除益に対して法人税が課される場合があり、税務上の対策が必要となる。
3つの手続きの比較と自社に適した選択基準
法人破産・特別清算・民事再生の比較一覧(費用・期間・要件)
どの手続きが自社に適しているかを判断するため、費用・期間・主な要件を比較します。
| 項目 | 法人破産 | 特別清算 | 民事再生 |
|---|---|---|---|
| 目的 | 清算 | 清算 | 再建 |
| 予納金目安(東京地裁) | 20万円~ | 5万円~ | 200万円~ |
| 期間の目安 | 半年~1年程度 | 3か月~半年程度 | 計画認可まで約半年、その後数年の弁済 |
| 対象法人 | 全ての法人 | 株式会社のみ | 全ての法人 |
| 債権者同意 | 不要 | 必須(議決権総額の2/3以上など) | 必須(議決権総額の1/2以上など) |
| 経営陣の処遇 | 退任 | 退任(清算人にはなれる) | 原則として留任 |
法人破産と特別清算の使い分けのポイント
会社を清算するにあたり、法人破産と特別清算のどちらを選ぶかは、以下の点を基に判断します。
- 債権者の協力: 親会社など、債権者の大多数から協力が得られる見込みがある場合は特別清算が選択肢になります。協力が見込めない場合は法人破産が現実的です。
- 財産管理の透明性: 過去に不透明な資金移動などがあり、公平性が問われる可能性がある場合は、破産管財人の厳格な調査が入る法人破産手続きが適しています。
- 企業イメージとコスト: 破産のイメージを避けたい場合や、コストを抑えたい場合は特別清算にメリットがあります。ただし、同意が得られず法人破産に移行すると、かえって時間と費用がかかります。
清算型と再建型のどちらを選ぶべきかの判断基準
事業を畳むか、継続を目指すかの判断は、会社の存続価値を客観的に見極めることが重要です。
- 事業の収益性: 借入金返済を無視した場合に、本業で営業利益が出ているかが最初の分岐点です。恒常的に赤字であれば、清算型を検討すべきです。
- 関係者の協力: 主要な取引先や金融機関、従業員から再建への理解と協力が得られるかどうかが鍵となります。
- 運転資金の確保: 当面の事業継続に必要な資金を自己資金で賄えるか、あるいは資金を提供するスポンサーの存在が不可欠です。
- 事業の独自価値: 他社にはない技術やノウハウ、強固な顧客基盤など、社会的に残す価値のある事業を持っているかが問われます。
これらの条件を満たさず、再建の見込みが乏しい場合は、いたずらに傷口を広げる前に清算型を選択することが、結果的に関係者全員の早期の再スタートにつながります。
手続き選択が取引先や企業イメージに与える影響
選択する手続きは、企業の対外的なイメージに直結します。法人破産は「経営破綻」のイメージが最も強く、取引先に与える影響も甚大です。特別清算は、親会社による整理など計画的な清算と見なされ、破産に比べるとネガティブな印象は和らぐ傾向があります。民事再生は「再建」を目指す点で前向きな手続きですが、それでも倒産の一種であるため信用不安は避けられず、取引条件の厳格化などを招く可能性があります。どの手続きを選択するにせよ、関係者への誠実な説明が不可欠です。
申立て前の「やってはいけないこと」:偏頗弁済と資産隠し
経営が苦しくなると、特定の関係者を守りたいという思いから誤った行動をとってしまうことがあります。しかし、以下の行為は法的に固く禁じられており、深刻な結果を招きます。
- 偏頗弁済(へんぱべんさい): 親族や特定の取引先など、一部の債権者にだけ優先的に借金を返済する行為。債権者平等の原則に反し、破産管財人によって取り消されます。
- 資産隠し: 会社の財産を個人名義に移したり、不当に安く売却したりする行為。詐欺破産罪という犯罪に問われる可能性があり、絶対に行ってはなりません。
追い込まれた時こそ独断で行動せず、速やかに弁護士に相談し、法に則った透明性の高い手続きを進めることが、経営者自身と関係者を守る唯一の道です。
法人の倒産手続きに関するよくある質問
手続き開始後、従業員の雇用はどうなりますか?
法人破産や特別清算といった清算型の手続きでは、会社が消滅するため、従業員は全員解雇となります。実務上は、申立ての直前または直後に解雇手続きがとられます。会社に資金がなく解雇予告手当を支払えない場合でも、従業員は国の未払賃金立替払制度を利用して、未払い給与や退職金の一部(最大8割)の支払いを受けることが可能です。また、倒産による解雇は「会社都合退職」となるため、失業保険(雇用保険)で手厚い給付を受けられます。
経営者個人の連帯保証債務の扱いはどうなりますか?
法人が破産しても、経営者個人が負っている連帯保証債務が消えることはありません。法人の財産で返済しきれなかった債務は、保証人である経営者個人に請求されます。多額の保証債務を返済できない場合、経営者個人も自己破産を申し立てることが一般的です。これにより、個人の債務も免除され、経済的な再スタートを切ることが可能になります。また、一定の要件を満たせば「経営者保証ガイドライン」を活用し、破産を避けつつ保証債務を整理できる場合もあります。
「特別清算」と「通常清算」の違いは何ですか?
両者の最も大きな違いは、会社の財産で債務を全額返済できるかどうかです。
| 項目 | 通常清算 | 特別清算 |
|---|---|---|
| 財産状況 | 資産が負債を上回る(資産超過) | 負債が資産を上回る(債務超過)、またはその疑いがある |
| 目的 | 円満な会社の廃業 | 倒産処理の一環としての会社の清算 |
| 裁判所の関与 | 原則として不要 | 必須(裁判所の監督下で進められる) |
つまり、通常清算は倒産ではなく、全ての借金を返済できる状態での「自主的な廃業手続き」であるのに対し、特別清算は債務超過状態にある会社を整理するための「法的な倒産手続き」です。
取引先への支払いはいつから停止されますか?
原則として、弁護士が債権者に対して受任通知を送付した時点から、すべての支払いを停止します。これは、倒産手続きにおける債権者平等の原則を守るためです。特定の債権者にだけ支払いを続けると、後に「偏頗弁済」として法的な問題になるため、すべての債権者への支払いを一律にストップする必要があります。この支払いを止めた状態を「支払停止」といい、これが法的に「支払不能」であると判断される重要な事実となります。
まとめ:自社の状況に合わせた最適な倒産手続きの選択を
本記事では、法人向けの主要な倒産手続きである「法人破産」「特別清算」「民事再生」の3つについて、その違いと選択基準を解説しました。事業の継続価値がある場合は「民事再生」による再建を、事業継続が困難な場合は清算を目指すことになります。清算型の中でも、債権者の協力が得られるかどうかが「特別清算」と「法人破産」を分ける大きなポイントです。各手続きにはメリット・デメリットがあり、費用や期間、求められる要件も大きく異なります。どの道を選ぶにせよ、偏頗弁済や資産隠しは絶対に行ってはならず、透明性の高い手続きが求められます。最終的な判断は、個別の財産状況や債権者との関係性など、複雑な要素を総合的に考慮する必要があります。追い込まれた状況で誤った判断をしないためにも、まずは倒産問題に精通した弁護士へ速やかに相談し、自社にとって最善の道筋を見つけることが不可欠です。

